面白い映画だが勧めない。シリアルキラーものとか悪趣味に耐性のある人でないと目を背ける描写多数なので。
70年代にドイツに実在したフリッツ・ホンカの物語。
猫背で鼻が曲がり乱杭歯のブ男、フリッツ・ホンカ。彼はいきつけのバーでナンパしても必ず振られてしまう。仕方ないので誰も相手をしない高齢のアル中娼婦を家に誘いレイプして殺していく。仕事→バー→娼婦のナンパ→レイプ→殺人という日常を淡々と描く。地獄の様な映画。
映画になるシリアルキラーには物語がある。エド・ゲインには母との妄執、テッド・バンディにはハンサムエリート殺人鬼、ヘンリー・リー・ルーカスには虚言癖とその無茶苦茶な過去。
どれも怪物になる説得力のある物語だ。それがフリッツ・ホンカにはない。
自分の外見に大きい劣等感を抱え、しかもそれを言葉に表現できない苦しみ。劇中で彼の内面を語るシーンもなく、彼に寄り添うキャラもいない。唯一、娼婦を殺し始末した後にベッドで毛布をくわえ慟哭するシーンだけが彼の絶望を表してる。
ほとんど全てに絶望してるのでお酒を飲むしかない日常。どんなに酔っても大人の男には手出しできないのがリアルだ。彼が暴力を振るえるのは老いた娼婦だけなのだ。
これに比べれば『ジョーカー』の絶望は生ぬるい。アーサーくん下には下がいるぞ。
素晴らしいのが美術。フリッツ・ホンカの部屋と彼のいきつけのバーゴールデン・グローブの凄さ!殺気溢れる汚さのフリッツ・ホンカの部屋と薄汚く嘔吐物の匂いが染み付いてそうなゴールデン・グローブのセット!ゴールデン・グローブは常連客ほとんどがアル中として描かれ、絶対入りたくない地獄の底のようなバーに仕上がってる。
全ての殺人にアルコールが絡んでいるのでアルコール依存症啓発映画として観ることができる。登場人物のほとんどがビール飲まないんですよ。多分ビールは酔うにはコスパが悪いから。安いジンこそ彼らの酒なのだ。
私達から遠い怪物ではないシリアルキラー、多分一番近くにいるシリアルキラーフリッツ・ホンカの物語。そう思うと本当に恐ろしい。