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劇場版 Fate/stay night Heaven's Feel Ⅲ.spring songのシネマノのレビュー・感想・評価

4.1
『観る者まで全員のエモーションが爆発する、運命対峙の最終章』

もとのゲームもアプリも知らず、ただただアニメだけハマった身だとしても…
本作と、【Fate/stay night Heaven's Feel】三部作は心から楽しめた。

コロナによる公開延期を越えて、圧倒的な期待をもって公開された最終章。
久しぶりにチケット発売開始に予約したのだが、サーバーがパンクするなど、
期待の高さとシリーズへの愛は、単なる映画好きでしかない自分にも充分すぎるほどに伝わってきた。
公開初日の朝に観に行くなんて、自分も凄まじく楽しみにしていたのだが、
そんなにわかファンの期待さえも裏切らない出来に興奮した。

原作でいう「桜ルート」のラストまでを描く本作。
どうやらファンの間では、映像化は難しいとされていたようで。
情報量、展開、そもそも原作のボリュームから、これだけまとめあげられたことにも称賛が集まっているらしい。
確かに、三部作を通して"Fate"に対峙する者たちがおりなすドラマの起承転結は見事だった。
もちろん熱心なファンであればあるほど、細かな演出やセリフまで味わえるだろう。
(三部作の二作目を初めて観た時点では、アニメシリーズの「UBW」を未鑑賞だった自分にゾッとするが…)
しかし、そうでなくても観客を魅了するドラマ、アクション、キャラクター、世界がそこにあった。

出逢い、聖杯戦争と運命の始まりを描く第一部。
希望と絶望、喪失と欲望、運命の加速を描く第二部。
そして、自分たちの世界に在る運命との対峙を描く第三部。
思えば、三部作でひとつのドラマなのだから、本作は全編にわたってクライマックス。
登場するキャラクターのエモーションも最高潮、爆発しまくる。
これで観ている側も高揚しないわけがない。

士郎の正義
切嗣の願望
臓硯の野望
凛の家族愛
ライダーの愛
アーチャーの意志
イリヤの覚悟
そして、桜の夢

全てが一つの運命と対峙して、ゆえに運命が創造されていく様から目が離せなかった。

あらゆるキャラクターの想いが爆発するので、駆け抜けるような展開も少年漫画のようなセリフの応酬も最終章ならでは。
一部、二部の展開があったからこそ、それすらも好印象に感じた。
そして、その爆発的なエモーションに匹敵する制作陣のアクション描写には恐れ入る。
終盤の戦闘描写は、まさに最高峰のバトルアニメーション。
作り手の気迫もまた、観客にとっては宝具に同じだろう。

運命とは、自分だけのものではない。
あらゆる命の欲と夢が交錯して激しく流れる大河のようなもの。
独りでは抗えずとも、ふたりなら抗う意志と愛が生まれる。
そして、ふたりの願いと愛はさらなる願いと愛を生む。

どれほどの覚悟があれば
どれほどの想いを背負えば
どれだけもがき前に進めば
果たして、運命は変わるだろうか、味方してくれるのだろうか。

原作を知らないからこそ、ラストの展開には様々な想いが浮かんだ。
そして、色々な真相を知った今でも観た人それぞれの結末があっても良いのではないか、と思う。

本作にも、そして現実にも「失われた春」があって。
そして、ついに咲いた桜に人は何をみるのか。
Aimerが歌う"Spring Song”も、また深い余韻の薫りを残してくれた。
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