天豆てんまめ

新聞記者の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
4.2
昨日、キネマ旬報授賞式がオンラインでありましたね。

ベストワンは「スパイの妻」

主演男優賞が森山未來(「アンダードッグ」)
主演女優賞が水川あさみ(「喜劇愛妻物語」など)
助演女優賞が蒔田彩珠(「朝が来る」)
助演男優賞が宇野祥平(「罪の声」など)

宇野さんが助演男優賞制覇しているのが何だか嬉しいですね。「罪の声」の渾身の演技は圧巻でした。

来月の日本アカデミー賞でも宇野さんがちゃんと獲ることを祈りつつ、藤井道人監督の「ヤクザと家族」を観たので昨年日本アカデミー賞に絡めて書いた藤井監督の「新聞記者」について改稿レビューしました。※当時頂いたコメントも転記させて頂いています。


なぜ、映画「新聞記者」が日本アカデミー賞を取れたのか。

~突っ込まれながらもあまり語られない日本アカデミー賞の真実~

去年の日本アカデミー賞は印象的でした。唯一、場から完全に浮いていたシムウンギョンさんが最優秀主演女優賞が登壇スピーチでまさか自分がと唖然とし号泣してましたね。

形骸化されつつある授賞式に一瞬宿った真実の灯火。静まり返った中、彼女の完全に心意喪失したかのように泣きじゃくる姿。何か異様な光景を見てしまったかのよう。でも彼女のありのままの素の感情が迸っていて感動しました。

結果、新聞記者が第43回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞、最優秀主演男優賞、そして最優秀作品賞をトリプル受賞。本当におめでとうございます‼️

そしてその足で近くのTSUTAYAでラスト一本レンタルし、真夜中「新聞記者」をみました。

あまりに攻めに攻めた映画で本当に素晴らしかった。主演女優賞シムウンギョンの唖然号泣のリアル登壇。その根底の理由が分かりました。この映画の彼女は確かに凄かった。米国育ちで父親日本人、母親韓国人という設定で日本語に違和感あっても役柄とあっています。そしてまあ重い。政権中枢・内調・官邸の虚実皮膜な際の部分をここまで切実に描いた映画はなかなかないかと。

父親が元新聞記者で国家圧力によりスクープ誤報とされ自殺したその娘の吉岡エリカ記者を演じたシムウンギョンさんの真っ直ぐな眼差しと感情の決壊に震えます。

そして松坂桃李も素晴らしかった。内調室員杉浦の官僚の松坂桃李が国と真実の狭間で葛藤の末に下す決断と重み。2人の演技に後半何度か嗚咽してしまいました。彼のここ数年の難易度とリスクある役柄への挑戦は本当に素晴らしいですね。

この作品はスターサンズという小さな製作会社配給で本来日本アカデミー賞作品賞を取るような作品ではありません。

プロデューサーは実数18日で撮ったとのこと。日本アカデミー賞作品賞史上で予算も規模も最小。

ではなぜ今回取れたのか。

今更ではありますが日本アカデミー賞には映連各社の組織票があることは周知の事実です。

昔から北野武監督が突っ込んだり、受賞した本人樹木希林さんが、これは組織票のおかげね、と壇上で揶揄したり 笑 

皆薄々ではなく完全に気づいています 笑 

私がいた頃は普通に会社からこの作品にとメールが来ましたね 笑 従ったこと1度も無かったですが 笑 

今回のノミネートは翔んで埼玉と閉鎖病棟が東映。キングダムと蜂蜜と遠雷が東宝配給。そして新聞記者はスターサンズ。

俳優賞が映連4作品に偏っているのも同様ですが、まずこの5作品に新聞記者が滑り込んだこと。これが難しいのですがフリーランスの日本アカデミー会員がここ数年増えたこともあるかと。

そして最後の作品賞の5分の1を決める時、東宝と東映は割れ、今年5作に入らなかった松竹とフリーの映画人は新聞記者に入れる。

もちろん一番いいと思った映画に投票する映画人個人としての良心と矜恃もあったことでしょう。

また現体制に対して表現の自由が脅かされる危機感を覚えている映画人の危機意識も反映していると思います。

そしてラスト作品賞を発表するのは日本アカデミー協会会長の岡田裕介東映会長(昨年11月に永眠されました。心より冥福をお祈り申し上げます)の代行の東映多田社長。映画畑でもない元秘書部長の岡田氏の愛弟子ですね。彼が読み上げて新聞記者❗️なかなか痛快なモーメントでした。

日本アカデミー賞の一つの可能性を指し示した瞬間かと。今回もちろん原作大好きキングダムの吉沢亮、長澤まさみもが最優秀助演賞を取ったのは良かったですし(続編楽しみ!)蜜蜂と遠雷も素晴らしい作品でしたがこの結果は、翔んで埼玉が監督賞と共に作品賞までも取らず本当に良かったかと。完全に真の映画ファンが見放す瞬間になり得ました。

これからももっと多様性と社会性のある作品群が出てきて欲しいです。何に変えてもこの渾身の作品を作り上げた松坂桃李さん、シムウンギョンさんの溢れんばかりの熱演と、若干33歳にしてこの題材に斬り込んだ藤井監督と公開まで難局を乗り越えて支えきった製作陣の勇気と気概に心底敬服します。

この映画のクライマックスでシムウンギョンは揺れる松坂桃李の目を真っ直ぐ見て、「私たち、このままでいいんですか?」と言い放った。

映画に貫かれたこの強いメッセージが今も脳裏を反芻している。

日本アカデミー賞のあの放送事故かとも思えるほどに決壊したシムウンギョン最優秀主演女優賞受賞時の感情の発露と滂沱の涙は、そのまま日本映画界にも鋭く、そして深く貫かれたように思えた。

「私たち、このままでいいんですか?」