ムンバイ出身のインド人青年アジャが幼い頃から憧れていたパリを訪れるんだけど、インテリアショップのクローゼットで寝ている間にロンドンに出荷されてしまってーという嘘のような冒険話。
ストーリーは、少年院送りとなった少年達にその物語を話し聞かせるような形で展開します。
コメディ要素も多く単純に楽しく鑑賞できる反面、幸せとは何か?を追求する哲学を感じられる作品。
この物語が素敵なのは、一見薄っぺらい御伽話のようなストーリーに仕上げることで、取り組むべき重要なテーマを身近なお話として表現しているところ。
つまり、難民や不法移民といったリアリズムをファンタジーでカバーすることで、誰もが耳を傾けやすい情報に落とし込んでいるんですねー。
真実をニュースや新聞で伝えたところで、多くの人は聞き流してしまうし、ましてや子供が見る可能性はかなり低い。でも楽しい物語の中に溶け込ませたら?
映画の最後「本当の話なの?」と少年たちに聞かれたアジャが「重要なところはね」と返す。
ようするに、大事なのは真実じゃなくて想像させること。語ること。
物語の冒頭で、人間の運命とは生まれた国や境遇によってある程度決まっていて、人間の平等性は運次第。みたいなメッセージがあります。
でもアジャは自分の経験を通じて、想像は救いになるし、運命を変える原動力にもなることを知っています。
この作品を見ていると、選択肢の多さが=幸せではないことに気付きます。
むしろ成熟した社会で想像力を働かす機会もないし、満たされないと自己満足度がどんどん低くなっている世界より、よっぽどキラキラした登場人物に溢れている。
幸せは主観の中で芽生えるものだけど、自己満足の範囲で生きている限り、本当の幸福を感じることはできないのかなあ。
与えることを選んだアジャは、ある意味究極の幸せを掴んだのかも。
ストーリー以外だと、IKEAカラーを多用したカラフルな色使いがとってもキュート。
それから、登場する街並みや人々が素敵で、映像全体がハッピーに溢れています。
特にパリの家具店で、一目惚れした女性と空想デートするシーンがお気に入り。
あえてツッコミどころ満載に仕上げているため、深く考えながら鑑賞する作品ではないです。
ムンバイ→パリ→ロンドン→スペイン→ローマ→リビア→ムンバイ。
アジャと一緒に96分間の世界旅行を楽しみましょう。