芽

影裏の芽のネタバレレビュー・内容・結末

影裏(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

この映画を綺麗にまとめるのは容易な事では無いが、時の流れや音の心地良さ、雨音や煙草の日を付ける音、移りゆく情景。
全てが美しく、これだけで心が浄化される。
感想なんて言うのも烏滸がましいくらい、アンニュイな映画であった。

「知った気になんな。お前が見てるのはほんの一瞬光が当たったとこだけだってこと。人を見るときはその裏っかわ。影の一番濃いとこ見んだよ」

人を知りたい時どうしても人の光を見てしまう。そして知った気になってしまう。
影を見て幻滅したくないからだ。影がどんな影であろうと“知りたい”と思ったその時は、その人の事を心から愛しているという何よりの証拠になる。

今野は日浅の事を愛していた。それは少なからず日浅にも伝わっていただろう。
日浅も今野に対して他の人とは違う感情を抱いていたから、今野には“分かりやすい”影を見せてこなかった。

光と影は対になっていると同時に重なる時もある。日浅も光と影が重なった時があった。でも今野はそれを受け入れたくなかった。
張本人が消えていなくなった時に初めて独占欲で満たされる。気付いた時にはもう遅いが、それまで気付かなくて良かったのかもしれないという気持ちにもなる。

日浅は濁流の様に去っていってしまった。
でも確かに“日浅”という人間は今野のいる世界に存在し、そして今野は日浅を好きでいたという事実を心に秘めたまま今を生きていくのだろう。

1度見ただけでは理解し難い部分も多く、メタファーが沢山隠されているのだろうなと思った。だけどもう1度見て確認したいかと言われたらそのような気持ちにまではならなかった。

2024.10
芽