キナ

メモリーズ・オブ・サマーのキナのレビュー・感想・評価

メモリーズ・オブ・サマー(2016年製作の映画)
4.0
苦い。
苦虫100匹、センブリ茶100杯、正体不明の野草100本をぎゅっと濃縮したエキスを飲むのと同じくらい苦い。

冒頭、気まずい闊歩とショッキングなピョトレックの行動で幕を開ける物語に、これから心が重くなる映画を観るんだと覚悟を決めた。

毛穴や肌の質感までよく見える接写のカメラが印象的で、感情よりも物理的で触感に迫ってくる。
肌が触れ合った感触や硬くて冷たい水面に叩きつけられる感覚、女の香りと煙草の匂い、口内に広がる血の味など、とにかく五感が刺激される。
国も時代も違うのに、生活感が強くてすごく身近にこの映画を感じた。

ママとマイカ、二人の女性と対するピョトレックの一夏。
仲良しのママからは色めき立ったテンションや苛立ちをストレートにぶつけられる理不尽と不快感。
心惹かれるマイカの移り変わる女心に振り回され、何が起きてるんだか何考えてんだかわからない不透明感。

常に心地悪さと惨めさがつきまとってくるのでもう堪らない。
ピョトレック、何も悪いことしてないのに…。
おそらく唯一の友達は夏休み中は親戚の方に行っているらしい。かわいそうに。

麦畑を自転車で駆け抜け、湖で思う存分飛び込み、水際で仰向けに寝転び、汽車と競うように爆走する。
一緒にいる人が変わりながら数回繰り返される、このピョトレックのとっておきの遊びのルーティンの対比が完璧だった。
微かな不安を孕んだ一度目、眩しくかわいい青春の二度目、心に重石がのしかかった三度目。
明るい恋の歌に合わせたダンス。
はしゃいだママと地の底に落ちたママ、先導する人の交代。
楽しさも甘酸っぱさも寂しさも心地悪さもすべて詰まった、これらのシーンの対比と変遷が大好き。

眼鏡のひょろい少年のくだりが一番好きかもしれない。
独りと独りが合流する惨めさから逃げ出したその結果の残酷さ。
謎の再会ではきちんと目と目を合わせて向き合い、ひたすらに遊べたことが心から嬉しかった。

天真爛漫で色気があり、きっと男性が横に居ないと気が済まないタイプのママ。
「母親であることより女であることを選んだ」みたいな言葉をよく目耳にするけど、「母」と「女」が別物のように扱われるのは何故だろう。
子供を産んだら女じゃなくなるのか?
一切の色気を捨てて生活に浸らなければならないのか?
そんなことは絶対にないと思う。

とは言いつつ、子供目線になるとこの映画のママの「女」感にはちょっと引いてしまうしなんなら嫌悪感も不快感も強い。
子供からしたらたまったもんじゃない。
息子とママの上昇と下降を繰り返す人間模様には、思わず自分と母親とを重ねたりして。
噛まれる痛みが蘇ったり、男との逢瀬にキャピキャピしてる姿とか、やっぱりヴッとなるじゃない。
あの掴み合いなんて、私だったら殴り返してる。

そもそもシングルマザーの恋愛ならまだしもがっつり不倫(おそらく相手も妻子持ち)なのがネック。
しかし共感はできないけど完全否定もできない。
私があのママだったらきっと同じことをすると思う。
もう少し上手く隠したいけれど。
マイカの移り気も同様に。だって歳上のちょっと不良兄さんの方がかっこいいじゃない。

追い詰められたのか、自分を見てくれないママの気を引きたかったのか、最後の彼の行動と選択はなかなか胸に突くものがある。
もうどうしたって元には戻れない悲しさが辛い。
希望的な未来も絶望的な落ちも想像できず、ただひたすらのお先真っ暗。
無音のエンドロールも示唆的。
ダンスシーンのあの曲がまた聴きたかったな。

一人称ではないけれど、ピョトレックの主観のような描き方が印象的。
彼が知らないことは私たちにも見せず、時には彼の体験も見せてくれない、もどかしさすら感じる表現。
ピョトレックの日記を映画に起こしたようなつくりだった。
飛び込みしすぎ。回転ブランコ上のキスに憧れる…。
キナ

キナ