シネマノ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのシネマノのレビュー・感想・評価

4.0
『はじまったら最後…人の皮を被った悪魔の所業が続く怒涛の206分間』

言わずと知れた映画界の巨匠マーティン・スコセッシ。
御年80にして、これほどまでに容赦のない映画を送り出してくれるとは…
あらすじやディカプリオ主演という触れ込みだけで観に行こうとしている人は、ある程度の覚悟をもって臨んだほうがいいかもしれない。
(206分という長さだが、展開含めて途中離席はおすすめしないことも含めて)

原作は、オセージ族(俗にいうインディアン)連続殺人の真相に迫るノンフィクション小説。
事実であるからこそ、映画に映し出される人物も展開も何もかも容赦ない。
キャラクターに感情移入できないという批評もどこかで見たが、そりゃそうだ。
人の皮を被った悪魔たちになど、感情移入なんてできるわけがないだろう。
観客はただただ見せつけられるのだ、もはや虐殺とも言うべき所業を。

しかし、本作はそんな観るに堪えないドラマが展開されるだけの映画ではない。
スコセッシ監督の手腕は健在だ。

ドラマの中心に据えるのはアーネストであり、レオナルド・ディカプリオが演じる。
そして、”王(キング)”ことウィリアム・ヘイルを演じるのは、ロバート・デ・ニーロである。
凡人アーネストと王ウィリアムのやり取りは、もはやコメディの領域に達し、鬼畜の豪華共演だけでも映画はもってしまうし、キャスティングが成ったのもスコセッシ監督だからこそだろう。
さらには、アーネストの妻モリーを演じたリリー・グラッドストーンの存在も大きい。

加えて、本作はギャング・マフィア映画の傑作を数多く生み出してきたスコセッシ監督の演出が冴え渡る。
暴力と殺戮は生々しく、そして唐突にもたらされるのだ。
この緊張感が非常に映画的であり、上述の演技合戦によって緊張と弛緩が連続して飽きさせない。

だからこそ

206分間でもまだ足りない、緩急自在の編集によってところどころ駆け足にすら感じさせてしまうほどなのだ。
映画における事実を思えば、決して「面白かった」とは言えないが、映画体験としては極上である。

世界中に恐ろしい事件や闇の歴史は存在する。
オセージ族を見舞った残虐な歴史、その被害者は本作で描かれた数の比ではないだろう。
自らを”支配者”、”搾取する側”と考えて、直接手をくださずに口で殺してしまうことの恐ろしさ。
だからこそ、命じられた側が起こす、唐突で残酷極まりない暴力と殺人が後を絶たない。

冒頭の、アーネストとウィリアムの”女”についての会話と下卑た笑い(今となってはいっそう胸糞悪い)から、
感情移入もできないキャラクターたちに用意した結末まで…
スコセッシ監督は、”映画人”として淡々とそれを描き出していた。

そして終盤の舞台劇演出、登場する本人の語ることと表情・トーン、そこに”映画人としての想い”がちゃんと込められていて。
タイトルの意味が分かるラストとともに、しっかりと観客の心へ鑑賞前→鑑賞後の力を刻んでくれる。

本作を観て想起したのは、【冷たい熱帯魚】(10)。
でんでん=デ・ニーロ、ディカプリオ=吹越満、当作品も実際の事件をもとに描かれていた。
それを事前に知っていれば、本作の観方(≠面白さや楽しさ)が分かると思う。

▼邦題:キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
▼原題:Killers of the Flower Moon
▼採点:★★★★★★★★☆☆
▼上映時間:206min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞(IMAX)
▼鑑賞劇場:T・ジョイ PRINCE品川
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