140字プロレス鶴見辰吾ジラ

きみと、波にのれたらの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

きみと、波にのれたら(2019年製作の映画)
3.9
【Real Thing Shakes】

湯浅政明の新作!
吉田玲子脚本!
主題歌はEXILEグループ!

予告編見て、「う~ん…」と気の迷いを孕んだが、湯浅政明ワールドに飛び込みたい!興行収入不調がなんだ!荒波に臨むぞ!と劇場に足を運べば、冒頭10分に湯浅政明的な“揺れる現実“をアニメーション的快楽で魅せられた。消防士アニメなら「プロメア」だ!と世間。しかし序盤のレスキューシーンと恋の始まりのリアリティが虚構で揺らぐエンタテインメント的シーンに心鷲掴み。入電→消防士着装と確認描写→ホース設置→放水開始の「シンゴジラ」における自衛隊シーンのようなリアリティと、花火が引火して華やかなディザスターが起こる最中での運命の出逢い。これは胸キュン!ですわ。湯浅式のアニメアクションのダイナミズムは過剰な動きと日常のリアルなディテールを大幅に演技させる瞬間の熱量にときめいてしまうのだと感じた次第。単なる自転車での帰路のカメラワークの工夫やオムライスのタマゴがとろけるシーンしかり。

実はアナログな要素を過剰演技させるあたりギミックに目を奪われがちで、そこにあまりにストレートな恋愛描写が入り居心地が悪くなるレベルの恋愛糖分。ここでの珈琲描写は素敵。海辺の喫茶店のアナログギミックも素敵。そして本作のキーになる楽曲の飽きるほど使いつつ、甘々カップルのくだけた歌唱(川栄李奈の演技が抜群!)の挿入と恋愛糖分多量のモンタージュは作品の推進力になる美しさ。

当然ストーリー上に公開されている死別が来るわけだが、ここの引きの絵で冷徹に彼岸へ突き放すのは気分が悪い。「ゴースト ニューヨークの幻」をポップなアニメとして湯浅流に構築し吉田玲子が切なくビターに手綱を握る。EXILE楽曲をキーにするのはオタクよりかは平均よりにエンタメ化する狙いだろうが個人的にダメージは少なかった。

クライマックスへ向けてヒロインが壊れた感を出すも割と重要な事実を忘却しているヒロインの後出しにより発覚する事実は、マーク・トゥエインの「人生には2度大事なときがある。生まれたときと、生きる意味を見つけたときだ。」の如く再びエモさが高ぶり、文字通りのラストミニッツレスキューへ。虚構的廃棄のレスキューシーンで「エンドゲーム」的なキャプテンアメリカのトニー・ロジャースからサム・ウィルソンへの継承的な見せ場が欲しかったが、ド派手なファンタジー事象に文字通りの焼却炉→火葬場としてのシークエンスを、これまた「劇場版名探偵コナン」ばりの無茶苦茶な脱出シークエンスにしたのは、驚きとエンタメの過剰摂取だった。

誰かの行動や言葉が誰かを救うという“きっかけ“の物語としての演出は弱いが、湯浅流のアクションと吉田玲子のスウィートかつビターな恋愛と別れと再出発の流れは良作として文句なしだった。

実は虚構丸出しながら、映像的にもセリフ的にも伏線が、日常描写やアナログ描写がリアルに映される反面それが一気に揺れるアニメーション的過剰演技に支えられた行き過ぎず、抑制されない湯浅映画となったのだと感じた。さりげなくお料理映画としてのポイントも高い。