小松屋たから

テルアビブ・オン・ファイアの小松屋たからのレビュー・感想・評価

4.1
平和や友好への祈りを込めた映画はたくさんあるが、もちろん、ひとつの作品の影響で何かが劇的に変わる可能性などほとんどないだろう。でも、世界で最も深刻な対立の一つとも言えるパレスチナ問題を、このようにフットワーク軽くエンターテインメントに擬することができるのであれば、まだまだ人間も捨てたものではない。そう思えた粋な低予算映画だった。

イスラエルのパレスチナ人居住区に住むサラームは、叔父のコネでユダヤ人、パレスチナ人双方、特に女性陣から大人気のベタベタの連続メロドラマに関わることになった。それを知った検問所のユダヤ人司令官・アッシは、彼の妻や家族のご機嫌にあわせて、ドラマの脚本についてああしろ、こうしろ、と命令するようになる。ところがその無理難題がドラマに良い影響を与えてしまい、いつしか、二人は不思議な協力関係に。しかし、次第に、避けがたい民族間対立の影が忍び寄り・・

壁で遮られたパレスチナ人居住区に住む多くの人々は、反感を覚えながらも、エルサレムと西岸地区を行き来しなければ仕事が無い。ということは収入も得られ無い。その分断と、支配と被支配、衝突の象徴である「検問所」をこのような形でコメディの発信点として使う、という発想にまずは驚かされた。三谷幸喜さんの「笑の大学」と共通する点が多いことも興味深い。

また、アッシの脚本のアイディアが、強圧的に見えつつ、結構、的を得てしまうのがこの映画の妙で、そのおかげで主人公の想像力が高まり、実際にドラマが面白くなっていくと同時に、それぞれの人生も豊かになっていくという流れが心地よい。

しかも、終わりの見えない憎悪の連鎖、経済格差、決して越えられない壁の存在など、シビアな現実への視点も忘れてはいない。

メロドラマの内容自体が、民族間の対立の構図を反映しているので、ラストシーンを互いに納得のできるものにできるかどうか、映画の終盤はそこが見どころになっていくのだが、「融和は簡単ではないが、少なくとも共生はできるはずだ」、という作り手の真摯なメッセージが伝わる、実にくだらなくも見事なオチが用意されていた。


※Filmarksを始めて約一年。ニックネームを変えてみました。
ちょっと気分転換です。
でも、書いている人は同じです。
特に文体も変わりません(変えるような力も無いですし 笑)
もしよろしければ、皆さま、引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!