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ザ・リバーのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ザ・リバー(2018年製作の映画)
5.0
【ゲーム機がモノリスに見える世界】
第35回東京国際映画祭にて上映されるカザフスタンの新鋭エミール・バイガジン最新作『ライフ』に併せて過去作『ザ・リバー』を観た。なんと、奇遇なことに日本版MUBIで観られるので興味ある方は挑戦してみてください。

前回紹介した『ハーモニー・レッスン』に引き続き、強烈な画が観客に殴りかかってくる映画であった。『SCHEME』のFarkhat Sharipovやダルジャン・オミルバエフもそうだが、カザフスタン監督が放つ閉塞感ものは総じてパワフルだ。そのうち三大映画祭のコンペティションでグランプリ受賞するレベルでハイクオリティだ。『ザ・リバー』は、隔絶された地に文明がやってきて変化をもたらすシンプルな話しながら、窮屈さの表象の圧倒的手数で観る者を地獄へと突き落とす。

大黒柱に体罰を受ける場面、子供たちが、遠くと近くに配置され、フレームの外側で凄惨な暴力が振るわれる。それを冷たく立ち尽くす子供たちの姿を通じて抗えなさを描く。子供たちは、銃撃戦ごっこを始めるのだが、死角から見えない銃を撃ち込み、魂が抜けたように倒れていく。そして、不気味に靡く風が不穏な空気を紡ぎ出す。映画において風を描くのは大変なことだ。翳りある部屋に靡くカーテンや、暗がりで揺れる草木を通じて「風」を捉えていく。これが子供たち以上に、人間味ある動きをするのだ。

さて、映画を観ているとギョッとする場面が幾つかある。少年が突然、首吊りしてぐったりと倒れているような場面がある。死んだのか?と思っているとクルクルくると回転始めて、それがブランコであることが分かる。エッジの効いた静と動の運動で怖さを演出するのだ。

また、「いとこ」と名乗る男が現れ、ゲーム機を魅せる場面。そこでは到底ゲーム音とは言えない謎の電子音が流れる。これは『2001年宇宙の旅』においてモノリスに接触する類人猿の感覚を擬似体験させている。つまり、文明を知らない子供たちからすると、小さいディスプレイに広がる世界は宇宙人からもたらされたもの、サイエンスフィクションな存在として映る。それを奇怪な電子音で表現しているのだ。

また、荒野に飛び出す少年たちがたどり着く川の神秘的な様よ。三途の川かと思うほどに現実離れした姿が捉えられるのだ。パワフルな画で構築されたバイガジン作品。『ライフ』は3時間に及ぶ映画ときいてビビっているのだが、傑作な気がしてきた。
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