シュトルム凸映画鑑賞記録用改め

ジョーカーのシュトルム凸映画鑑賞記録用改めのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
3.9
現代版「キング・オブ・コメディ」や「タクシー・ドライバー」といった趣もある本作に、ロバート・デ・ニーロがこのような配役としてキャスティングされている意味は深長だと思う。
もはや個人の抱える孤独を蛮勇を以て突破する「一場の夢」を見ることさえ、否定的に描かざるを得ないということか。
哀しい時でも笑うコメディアン志望のピエロ、ホアキン・フェニックス演じるジョーカーが、ひたすら痛めつけられます。それは一義的には個人の精神的問題に起因するとしても、社会のセーフティネットが全く機能しておらず、社会がどうしようもなく分断しているという「現実」を突きつけてくる。白黒テレビの時代の架空の都市ゴッサムシティを設定として借用しながら、描かれているのは紛れもなく現代のアメリカの問題。(ゴッサムシティは、エド・マクベインの「87分署」シリーズのアイソラ同様、ニューヨークの文学的異名に他ならない)
貧富の差が激しい時代や地域は人類史にいくらもあったはずだけど、これほど社会が分断されている(それは貧富に限らず左右や国家間の関係などもそうなのだが)と感じる時代は現代以外になく、その空気をこの作品はよく拾い上げている。アメリカで大ヒットしたのもむべなるかな。
「金持ちを殺せ」というメッセージにさえならない扇情が貧困層の心を突き動かし、ジョーカーは英雄へと祭り上げられていく。金持ち側の悪や冷淡が巧妙に描かれているとはいえ、それにある種の痛快さを感じてしまう視聴者の自分にもぞっとする。
「ダークナイト」シリーズとはまた違った観点で、正義と悪の複雑な側面を描き出す本作。ここからあちらのジョーカーに繋がるとは思えない。本作のジョーカーは知的な策略を巡らす悪のカリスマではなく、あくまでも社会や他者によって悪に追い込まれるようになった哀れな道化なのだ。バットマンの設定を借りただけの社会派映画だとも言える。