ミカポンタス

ジョーカーのミカポンタスのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.8
はぁ。やっとレビューを書けるほどに心と頭の中が落ち着いてきた(笑)

最初にどういう言葉を並べるべきか、全く分からなかった。ただひたすらに感じたのは、今までの人生で全く感じた事のない類の、この上なくやり場のない悲しみ。悲哀。

"Joker" のストーリーを見ている事、況してや "アメコミ" の派生である事を完全に忘れてしまう2時間。
これ、実話ベースだったか?と錯覚してしまうほど、不気味な程に現実味のある怪作。もはやエンタメとて観るべきではないと思わせられる程の脅威。金獅子賞、おそるべし。

その大半を左右しているのは言うまでもなく、主演のホアキン・フェニックス。
精神疾患と闘うアーサーと、自身もアルコール依存症と闘っていたホアキンはどこかリンクする部分があったのではなかろうか。19歳で最愛の兄リヴァー・フェニックスを亡くし、壮絶な過去を経験して来たであろう彼の集大成とも言える作品となったに違いない。

あんなにも悲しい笑い声は聞いたことがない。
そしてあの究極の孤独と悲しみを体現できたのは、彼だったからこそだろう。
ホアキンのあの眼の演技も最高に素晴らしい。もう失うモノは何もないと言う彼の眼は、不気味なはずであるのに透き通っていて美しく、100も1000も語るような印象的な瞳をしている。

ジョーカーは道化師ピエロの化身であり、"悲劇だと思っていた人生は、実は喜劇なんだ" とアーサーは言う。
オマージュであろう喜劇王チャップリンの映画を上映するシーンで、劇中音楽に合わせて無邪気な笑顔でリズムに乗る彼は善人にしか見えず、コメディアンに憧れる少年のようだった。
悲劇と喜劇、善と悪。どちらも紙一重であり、その狭間で葛藤する人間たちは救いようがない。善がアーサーならば、悪であるジョーカーへ堕ちるのは案外いとも簡単であり、彼の場合は悲しくも憎悪に支配された結果そうなってしまったのだろう。

ラストシーンでの、パトカーの窓越しに荒れたゴッサムシティを満足気に見上げるジョーカーは、ダークナイトでヒースのジョーカーが大胆に身を乗り出していたのと対照的で、まだ産まれたてとでも言うように控えめで且つこれからの始まりを示唆しているように見えるのがまた恐ろしく神々しい。

観れば観るほど傑作になっていく。
もうこれオスカーは完全にホアキンだと思います。