わきお

華氏 119のわきおのレビュー・感想・評価

華氏 119(2018年製作の映画)
3.8
◼️失望のその先

誰もが耳を疑ったドナルド・トランプの大統領戦勝利の報。アメリカ国民は極右の彼に何故アメリカの舵取りを任せることになってしまったのか。その理由について考察するマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー。

題材はムーア監督の故郷でもあるミシガン州の町フリントの惨状と、銃社会に強い意を唱えるために発奮した若者たちに大きく分かれる。

フリントはラストベルト(Rust Belt)と呼ばれる地帯に属しており、かつてGMの生産拠点であったことで豊かな生活を営んでいたが、生産能力を海外へ外部委託することによって工場が閉鎖されてからは一気に衰退していった町だ。
このフリント惨状は正直信じられないほどであった。町の財政悪化によりヒューロン湖から水道を引くことが出来なくなったため、近くのフリント川からの供給にスイッチするのだが、水質に問題があるフリント川からの生活用水には多量の鉛が含まれていることが判明する。町全体で鉛汚染が広がるのだが、市はその事実を認めず隠蔽に走る。業を煮やしたフリント市民は当時のオバマ大統領に直談判し、結果オバマはフリントの町を訪れることとなる。事態改善への希望に胸を膨らませるフリント市民であったが、オバマから発せられる言葉を聞くごとにみるみる失望の色に変わっていく。オバマは事実上市寄りのポジションであることを示し、フリントの水は安全なことを示すためにグラスの水を「飲む」パフォーマンスを取る。
既存政治家に失望したフリント市民。民主党支持者が大半であった市民は、労働者層支援を唱う不動産王へ多くの票を投じることとなる。

既存政治への失望をフリントの町を通して描いた一方、新たなる希望として描かれるのは若い活動家たちである。既得権益に恐れず立ち向かい、閉塞する社会を何とか変えようとする様は頼もしい。彼らの活動により、差別的発言を繰り返しながらも下馬評で圧倒的有利とされていた候補者を引きずり下ろした様は痛快であった。
腐敗を律し、社会の保持だけでなく変革も求めていく理想的な政治の姿がそこにあったように思えます。

既存政治への失望に対する言わば劇薬とも言えるトランプの台頭をナチスに準えているシーンが印象的に差し込まれている。混沌の時代に戻らないためにも、先ず率先して変わるべきは我々なのではないかと考えさせられる。

奇しくもこの状況で色々露見した今だからこそね。
わきお

わきお