よっくる

グリーンブックのよっくるのネタバレレビュー・内容・結末

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

はっきり言ってめちゃくちゃ面白かった。
途中までヴィゴ・モーテンセンだってわからなかった…くらい増量してた。俳優はスゴイ。

人種差別がメインの話と見せかけて、しっかり人種差別の話だった。だがそれが良い。世の中は複雑なんだ。

トニーが本当に良い奴で泣けた。
ドクに言われるがままロマンチックな手紙を書いちゃうくらい素直でかわいい奴。
手紙の文面が明らかに詩的になって嬉しくなっちゃうドロレスも素敵。

さて…未だに根強い差別の問題。少し前に誰かのツイートでフライドチキンのくだりがバズっていた気がするけど、本当に差別の本質を突いている映画だった。

当時の「ルール」や「しきたり」が差別の土壌となっていることが丁寧に描かれていた。そして、差別じゃなく決まり(区別)ですという言い訳ができれば、いくらでも冷たく非人道的な扱いもできる。
この差別問題、現代で払拭されているかと言えば、そうじゃない。監督の意図は知らないけど「当時はひどい時代だったね~」で終わらせない演出になっているところがとてもとても良かった!スタンディングオベーション!

***
【ここからはわたしの意見なので、異論・ブチ切れ自由です】
ドクは、金持ちの白人相手に教養とピアノの才能でたたかっているけど、現実では黒人専用の場所しか使えないし、名前を知らない人からすれば「ニガー」である。同性愛者だと推測できる描写もあり、時代背景的にマイノリティ中のマイノリティだ。
かたやトニーは、腕っ節と口先の“デタラメ”で生きてきた無教養の粗野人間。パッと見アメリカ人なので気楽に生きてるけどイタリア系なのでそのことで揶揄されることもある程度のマジョリティである。

ドクとトニーが口論になって、トニーが俺の世界の方が黒いと言うシーンがある。
子どもの頃から才能に溢れ、白人社会の中にあっても上流の暮らしをしてきたドクに、黒人の食べ物や暮らしを知らないだろと言うのだ。これはめちゃくちゃ重要な場面で、フワフワしたドクのアイデンティティ確立のために必要な指摘である。
ドクは自分を「黒人でも白人でもない、はぐれ黒人」だと言う……。
ドクがずっと抱えてきた孤独が伺えるし、トニーは本当に素直で悪気がない。差別心はない本気の言葉だし、だからドクはトニーに対して感情をあらわにしたが怒ったわけではない。

映画を観た私たちからしたら、ドクは天才ピアニストでクラシックが本分でフライドチキンを食べたことがなかったし、トニーはホットドッグ26個食べたイタリア系アメリカ人で妻子持ち、カッとなりやすく口先で生きている人だとわかる。ドクがやれトイレ使うなやれ食事は別の場所でしろとか言われたら私たちも怒るだろう。
この、個人レベルで見ると差別ができなくなる視点がまず大事である(何に大事なのか笑)。

次に大事なのは、とはいえ、結局外から見たら黒人と白人である点である。

この映画は実話だが、わざわざ黒人差別の根強い南部地方にドクが演奏会をしに行って、南部から差別を撤廃できたわけでも差別をやめろと訴えたわけでもない。
そもそも「グリーンブック」という黒人が利用できる施設が書かれたガイドブックに従って旅をしている。
警官をなぐって拘置所に入れられたときには権力を使い、ドクはそれを恥じたが、権力がなければ出られなかっただろう。
この2ヶ月間の旅で2人の間には確かな絆が生まれたが、周囲の人間は何も変わっていない。
ここがこの映画のミソだとわたしは思う。

映画のラストで、ドクに対して差別心をなくせたのはトニーとドロレスだけである。トニーが運転手兼用心棒をしていた相手と知りながら、トニーの親族はニガーと口走る。このシーンが印象的ですらある。親族にとってドクはまだただの黒人なのだ。
例えば……この親族がクリスマスパーティで数時間ドクと仲良くしたあと、まったく別の黒人に対して差別心なく接することができるだろうか?
怪しいなと思うだろ?そうなんだよ(力説)。

日本人の例で言うと「親日の中国人は差別しない」など言う人を目撃したことがある。わたしはこれがまさに差別だなと思う。条件付きの「差別しない」は差別の土壌でしかない。
そして、この差別の土壌の上にまだ我々は立っている………

すごく風刺を感じたのは、物語の終盤がクリスマスなこと。事実そうだったのだろうけど、風刺力の高さを感じた。
なぜなら、一瞬映るマリアの足元にいるキリストが、なんとしっかり白人なんだよね。
結構前からキリストはアラブ人だったんじゃないかって言われているけど、当時も今もキリストのイメージって黒髪ではあるけどなぜか色白だよね。ずっと昔からある像や絵画が、当時の聖書の都合でずっと白人ぽく描かれてるからね。刷り込まれているってわけ。
なんか途中から関暁夫みたいな口調になってきちゃったけど、信じるか信じないかはあなた次第です!
ドクって言い方好きだからドクで通したけどシャーリーのほうがわかりやすかったな~。
よっくる

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