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恐怖の報酬 オリジナル完全版のYYamadaのレビュー・感想・評価

3.8
【スリラー映画のススメ】
◆作品名:
恐怖の報酬 (1977)
◆映倫区分 / 日本 G(制限なし)
◆スリラーの要素
「死の運搬物」を積み荷に
 未舗装密林を死のドライブ
◆本作のポジショニング
 サスペンス ■□□□□ ホラー

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・「不正がばれたフランス人投資家」「メキシコの殺し屋」「命からがら逃げおおせたアラブ人テロリスト」「敵対組織から命を狙われるアイリッシュ・マフィア」の4人は、それぞれ南米の村に流れ着く。
・密林の村に足止めされるなか、近隣の油田で火災が発生。石油会社は、爆風で鎮火させるため、ニトログリセリンを現地までトラックで運搬するドライバーを募集。1万ドルの報酬と引き換えに、危険なニトログリセリン運搬を引き受けた4人の男たちの命運は…。

〈見処〉
①密林の果てに地獄を見た——
・『恐怖の報酬』(原題: Sorcerer=魔術師)は、1977年に製作されたサスペンス・スリラー映画。
・監督は『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』の成功にて、70年代の人気監督に上り詰めていたウィリアム・フリードキン。出演は『ジョーズ』(1975)のロイ・シャイダーとブリュノ・クレメールなど。
・本作は、カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した、1953年のフランス映画『恐怖の報酬』のリメイク作品。4人の男がニトログリセリンを運ぶというオリジナルの設定に加え、主人公たちの行く手を遮るジャングルの泥濘やぼろぼろの吊橋、反政府ゲリラとの攻防など、オリジナルにはなかった緊張感を煽る演出が加えられている。
・同年公開の『スター・ウォーズ/新たなる希望』の製作費が1,100万ドルの時代に、ユニバーサルとパラマウントという2大メジャースタジオの共同出資により、2,200万ドル(現在の100億円相当)という破格の製作費が投じられた本作。
・3大陸5カ国でのロケを敢行し、完成までに2年の歳月を投じた超大作であったが、北米公開は、傑作の誉れが高い1953年のオリジナル版と過剰な比較され、さらに『スター・ウォーズ』の一大旋風の煽りを受けたことから、興行的に大失敗。
・そのため、配給会社はフリードキンに無断で121分の北米版を92分に短縮編集し、海外上映を決行。結局は、海外の興行、批評的も惨敗。短縮版は、幾度もソフト化と絶版を繰り返したものの、長く完全版を陽の目を見ることのない「埋もれた作品」であった。

②40年ぶりに甦る「幻の傑作」
・上記のように、空前のスケールで作り上げられながら、不完全な形で世に出されてしまった本作。監督のウィリアム・フリードキンは、不屈の闘志で本作の権利関係を調査。2011年に裁判の申立てまでした執念が実を結び、カット部分を復活させ、画質・音響もアップデートさせた4Kデジタル・リマスターのオリジナル完全版を製作。
・そのお披露目となる2013年のベネチア国際映画祭で上映された本作は、大絶賛で迎えられ、監督本人も生涯功労賞を受賞。
・監督の執念により、復権出来た「幻の傑作」は、その後も様々な映画祭などで上映。日本では監督と配給会社が直接コンタクトを取り、2018年に劇場公開を果たした。

③結び…本作の見処は?
◎:「一体、どーやって撮影した!?」… 本作のジャケット写真にも登場している「濁流に掛かる吊り橋を渡る決死のドライブ」シーン。撮影中に5回も橋が落ちたといはう本作最大の見せ場の緊張感は尋常ではない。その雰囲気は、東京ディズニーシーのアトラクション「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー: クリスタルスカルの魔宮」の吊り橋を彷彿とさせる…というか、もっと不気味で怖い。
◎: 4Kデジタル・リマスターされた南米の密林の原風景はとにかく美しく、40年前の作品とは思えないリアリティーある映像は、一見の価値あり。
○: 「本物の交通事故としか思えない序盤シーン」「いつ爆発するかわからないニトログリセリン」…非常に緊張感が高い作品であることは間違いない。
▲: 92分版から付け加えられたとされる南米に至る4人の紹介シーンは、冗長気味に1時間にも及び、それでいて4人のキャラクターが深掘りされた訳でもない。
▲: トラック2台に分かれて搬送している描写の説明に乏しく、それぞれのトラックのシーンが切り替わり、急に異なる登場人物が乗車している場面は、いちいち混乱を招く。
×: 92分版にあったとされる「ニトログリセリン爆発による消火シーン」がカットされているのは、残念極まりない。
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