ryosuke

新しいモスクワのryosukeのレビュー・感想・評価

新しいモスクワ(1938年製作の映画)
3.7
 農業大学の女学生との出会いのシーンの、豚を追いかけるスラップスティック・コメディーの後、列車を追いかけて線路を走り、俯瞰の超ロングショットの中で静かに線路上に座り込む二人を捉えるまでの流れ。出会いをしっかり動きで見せてくれるのは好印象。全体的には正直しょうもないメロドラマにプロパガンダが接合された代物という感じだが。
 お婆さんが妹の家を発見したり、画家が街の風景を描こうとしたそばから建物が爆破され消えていく。スターリンのモスクワ改造計画の中で急激にその相貌を変えていく街のエネルギーが、中々力の入った特撮で表現される。
 主人公がアコーディオンで弾き語りするモスクワを讃えるプロパガンダソングは劇中でも歌として扱われる一方、ヒロインが寝ている主人公への思いを明らかにする描写はミュージカル映画の感情表現としての歌で、一つの作品の中でごちゃ混ぜにすると奇妙だな。車内でのキスシーンをモスクワの街をくねくねと蛇行する自動車のショットを幾つか重ねることで表現するのは上品かつチャーミングだった。カカシに扮した画家が頭をぐいっと下ろして自分の真下のカップルを覗き込む画も面白い。
 遂に待ちに待った展覧会シーン。逆再生で復活する建物。大通りを転がる謎の乗り物は可愛らしい未来イメージでいいね。天高くそびえ立つ象とその周囲を埋め尽くす航空機の画はプロパガンダ力に満ちている。ラストシーン、映画の主眼はメロドラマから労働賛美へとするりと入れ替わり、劇中何度か披露された、労働者と偉大なモスクワを讃える主人公の歌が合唱へと変容していくことで、個人の恋物語は労働者の一体性の中に吸い込まれていく。
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