きまぐれ熊

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

4.5
追加パートでここまで印象が変わるんだって驚き。
作品自体の良さはオリジナルの方で散々書いたので、オリジナルとの比較をメインに書きます

エピソードとしてはリンさんと周作の掘り下げがメイン
だけど差分を見ると、見せ方に沿ってテーマを丁寧に取捨選択されてたんだなということがよく分かる
オリジナルはすず視点の物語
今作は、すずを取り巻く人々が被写体という感じ。より俯瞰的になってる。

追加されたポイントを整理すると概ね2点かな

まずは、すずの観測不可能な視点での描写の追加
周作の叔母夫婦の会話や、義父円太郎の工廠でのシーンなど。
そもそもオリジナルでは、すずのいないシーン自体がほとんど無かった
それに加えて、すずがいても、すず視点では明らかにフォーカスが当たっていない部分にカメラが寄るようになってるポイントがいくつかある
例えば、押し掛けてきた径子が一旦帰るきっかけになった、晴美とのお兄ちゃんを思い出すような会話のシーンとか。
これらの要素から、すずの目で世界を写した映画じゃなくなって、すずの周囲を俯瞰的に写した映画って印象になってる。

もう一点は、絵日記のように上澄みを掬ったオリジナル版からは零れ落ちたような、生々しいシーンの追加
オリジナルは絵日記を模したストーリーテーリングだという印象が強かったが、そこには描かなかったであろう夜の営みのシーンなんかが追加
すずは嫉妬するし、周作にも抱えているものがある。リンは言わずもがな。
あくまでもすず視点の物語だったオリジナル版から、すずと周作とリンの三者のストーリーへと視野角を増やすような変更になってる

そういう訳で、
あくまでもオリジナルのすずの物語を見た後に、追加で本作を見るという形が想定されている作品だと思う
いきなりこれを見ると主題がぼやけていると捉えかねないくらい情報が多い

哲が訪れてきた時に周作がどうしてあんな暴挙に出たのかが、憶測ではなくある程度は明確に推察できるようになってるし、
すずがリンさんにどうしてあんなに拘っていたのか分かる内容になっている

尺の都合で詰め込めなかった内容とのことだけど、削った理由も追加した理由もテーマに沿って選定されていて、そのおかげで両作品の存在理由がそれぞれあって素晴らしい
興味ある人はこっちの追補版見ればOK!となっていないのはなかなかニクい
別テーマを持った作品だと思って、公開順に見た方がいいと思う

リンさん自体が魅力的なので追加パートももちろん純粋に面白かった
遊女特有の倫理観と距離感のバグり方と、根の性格の良さが共存している感じが非常にリアルだし、感じさせる陰にも原因があるので説得力がある
「気楽に笑うててよかった」って言うけど、大抵そういう時は自分がそうであってほしいと思ってるだけなんだよね。恐ろしいね。
ただそのくらい周作が大雑把な性格じゃないとすずさんはぶっ壊れてただろうし、全ては縁なんだろうね。
エンドロールのアニメーションは本当に胸が苦しくなる。

追加エピソードは楽しめたけど、
想像でしか把握できない所も含めて、個人の物語としてのリアリティがあったので、完全な好みで言えばオリジナル版の方が僕は好きかな。
ただどちらも傑作なのは間違いないです。
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