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ジェニーの記憶のwiwiwixのレビュー・感想・評価

ジェニーの記憶(2018年製作の映画)
2.8
自分にとって都合のいい断片を集め、あるいは嘘の記憶で上書きして認識を作り変えるーー自分の心を守る為にーー認知的整合化。言い換えると、「自分を正当化する美しい物語を人は作り出す」、それが主題。

主人公ジェニーの実体験を元に作られているわけだが、現在の彼女の生き方や考え方(結婚と家庭の嫌悪・セックス嫌悪・私は「彼」に愛された・「彼」に傷付けられていない)が、過去の心の傷を避け歪められた認識に基づいたものであることを、彼女自身が理解していく。その過程で閉ざされていた記憶が開かれたりする。

だが、開かれた記憶もまた、【物語】に過ぎない可能性への反省が無く、認知的整合化をモチーフにしているにも関わらずその点ナイーブなのは致命的欠陥。

また主題が陳腐。流行のジェンダー・アイデンティティのなぞり。
教材のような作品だなーと思った(「ボーイズドントクライ」を思い出した、あれよりずっとマシだけど)。13歳の少女を演じる実際の役者は8歳ぐらいに見えるが、そういうところにもありがちな意図を感じる。

自分自身の土台を揺るがす体験の前後の変化を描くのは難しい。何故なら作者は変化の後に居るからこそ描こうと思うはずで、そのとき過去の自分から見た景色は過去のものでしか無くなり生々しさを失ってしまうから。その点、2000年代後半から10年程のマンガ界では吾妻ひでお「失踪日記」、青野春秋「俺はまだ本気出してないだけ」、(根本敬・山田花子から連なり)福満しげゆきの成功に影響を受けたと思われる、「一人称エッセイ型ダメな自分告白マンガ」(「ジェニーの記憶」も似た構造持つよね)が勢いを持った。その中の一つの傑作、ペス山ポピー「泣くまでボコられて初めて恋に落ちました」の方が本作よりはるかに優れている。だが「泣くまでボコられて〜」よろしく、マンガゆえに可能な、作者が思ってから形にするまでの過程の速さと軽さ(一人作業だから)が可能にする、主人公の心の変化の表現の生々しさ(ゆえに起こる感情移入)は、比較すると映画では難しいよなあとは思った。
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