天豆てんまめ

孤狼の血 LEVEL2の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

孤狼の血 LEVEL2(2021年製作の映画)
4.3
狼は生きろ、豚は死ね。
昔、そんな戯曲があった。

松坂桃李の熱情に熱く滾り、
鈴木亮平の狂気に凍りつき、
緊迫した抗争に固唾を呑む。

そして
儚く散っていく命が切ない。

この夏、1番楽しみだった日本映画。
期待に応えてくれ存分に堪能した。

柚月裕子の小説を原作に、広島を舞台に警察とやくざの攻防を過激に描いてた「孤狼の血」の続編。

1作目主演の役所広司はもういない。なのに続編として、Levelを上げることができるのか。。

前作で新人刑事だった松坂桃李演じる日岡秀一が主人公。あれから3年後が舞台で彼はもうズブズブに裏社会に通じた悪徳刑事のヤバさを放っている。

3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれて殺害された伝説のマル暴刑事で役所広司演じた大上の跡を継いだ刑事・日岡。

ヤクザと裏で結び合い、警察権力を用い、裏社会を絶妙なバランスで取り仕切り、抗争を抑えてきた日岡に立ちはだかったのは、上林という刑務所あがりの悪魔のような男。ほんと悪魔の所業に引いてしまう。。あの筧美和子が、、😭


この1人の男によって危うくも守られていた組同士の秩序が崩れていく。

この作品は、日岡vs上林の対決という明確な構図に、警察側、暴力団側に一枚岩にならない裏切りの連鎖が覆い被さってくる重層的な物語だ。

監督は本作も白石和彌。やはりこのシリーズは、この人に撮らせたのが一番の成功の要因。現代の仁義なき戦いを怜悧な視線でドラマティックかつスタイリッシュに撮っている。

日岡役を松坂桃李。最近突き抜けているがこの世代の俳優で完全に一歩抜けた感。前作の新人刑事感の甘さはもうどこにもなく、痩せこけた頬に鋭い目つき、まさに別人の荒々しさを纏い、見事に主演を張っていたと思う。

上林役を鈴木亮平。この作品の肝。狂気と恐怖を纏った存在感は見事。「ダークナイトライジング」で言えば日岡がバットマン、上林がベイン。2人の対決の構図でクライマックスまでボルテージは上がってゆく。

吉田鋼太郎。面構えがいい。広島を牛耳る組の会長にしてどこか弱々しくユーモラスだ。

村上虹郎。日岡に頼まれスパイとなるチンタ役が非常に良かった。切ない。上林の狂気を一身に受ける苦しさをよく体現していた。

西野七瀬。チンタの姉で日岡とは男女の仲。広島弁のスナックのママを頑張って演じていて健気で可愛いが、演技の押し出しがいかんせん弱い。

中村梅雀。日岡の相棒となる定年間近の刑事。人が良さそうで裏の見えない感じがうまい。

滝藤賢一。前作に続いて県警管理官の嫌な奴。日岡の宿敵。相変わらずギョロ目の顔芸がうまい。

中村獅童。日岡の裏を調べる記者。うさんくささ満載で味がある。

斎藤工。かっこつけヤクザ。うまく作品に溶け込んでいるが物足りない。

音尾琢真。前作と同一人物ながら、成り上がり社長になっていて見た目と存在がギャグっぽく面白い。今や白石組のコミックリリーフだ。

全編にわたり、激高、怒号渦巻く、汗だく、血だらけの男たちの面(つら)がたまらない。

このシリーズこそ、東映の生きる道。

企画とプロデューサーの2人も昔お世話になった方々だが、前作でもうここにしか東映の鉱脈はないと腹を括ったのだろう。今後も掘り続けてほしい。

この猛暑の中、涼しい劇場で熱く煮え滾る気分になりたければオススメだ。








以下はネタバレなので未見の方は鑑賞後にお読みください。















作品としては満足だが何点か腑に落ちないところがあった。

クライマックスの日岡と上林のタイマンへの流れが不自然だった。上林が敵対する組の事務所にトラックで突っ込み襲撃。そこに警察内部告発で手錠をかけられた日岡が警察署から逃走して現場に来る。

ここでなぜか組員を放って上林が車に乗り込み、逃走のような形で日岡とカーチェイス。なぜその場を離れる?なぜ逃げる?その場で手錠されボロボロの日岡を殺めるか動けなくすることは造作もないはずなのに、わざわざ相手に逆襲のチャンスを与えるかのように、タイマンの流れになる。

あと一つ。

チンタが上林に殺され、遺体の前で泣きじゃくる日岡だが、それまでにチンタにさせていたリスクでは当然の結果。それまで心配の素振りもなく、感情の振り幅として心に入ってこない。

それと日岡の正義とこだわりに深みを感じず、狂気さと悪の漬かり加減も、役所広司が演じた大上には及ばない。最後オオカミ🐺の残影を追いかけたラストは、自分の真ん中にあるものを見失なって、大上に答えを求める彼の虚ろな心境が滲み出ていた。

2作目の松坂桃李の奮闘を観て改めて思う。

1作目の役所広司はやはり突き抜けて凄かったと。。全員まとめても彼には敵わない。