湯呑

ワイルド・スピード/スーパーコンボの湯呑のレビュー・感想・評価

4.7
シリーズ累計興収5,000億円を突破した、『ワイルド・スピード』シリーズ初のスピンオフ作品。あくまでカーアクションをメインに据えている本編に対し、本作はドゥエイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムという毛色の異なるアクションスターそれぞれに見せ場を用意した、ハイブリッドな格闘アクションがメインである。その意味で、『アトミック・ブロンド』のエクストリームなアクション演出で名を挙げたデビッド・リーチに監督を任せたのは正解と言えるだろう。
本編は残り2作で完結と予告されているが、こうした番外編の登場はシリーズの延命を図りたいという、作り手側の思惑を感じさせる。本シリーズも『スター・ウォーズ』やMCU並みのハリウッド一大コンテンツになった、という事だろう。実際、本編の出演者の中には本作の製作が発表された際、ネガティブな感情を持つ者もいた様だ。ただ、観終わって本作の存在は本編にとってむしろ良い作用を及ぼすのではないか、という気がした。
本編では犬猿の仲だった元FBI捜査官ホブスと元MI6の情報員デッカード・ショウの2人がW主演を務める事が本作のウリであろう。しかし、ホブスはともかく、このショウというキャラクターについてはシリーズファンほど割り切れないものを感じている筈だ。シリーズ7作目にして最高傑作『ワイルド・スピード SKY MISSION』で最強最悪の敵として初登場した彼は、主人公ドミニク・トレッドと激しい死闘を繰り広げたのだが、シリーズ8作目の『ワイルド・スピード ICE BREAK』であっさりと仲間に加わってしまう。その事も十分に納得してないのに番外編の主役まで任せられるとは…
もちろん、過去作で敵対していた人物が次作以降で脈絡なく仲間に加わり、ドミニクを家父長とするファミリーがどんどん拡大していくのは本シリーズの特徴であり、ここまでの大ヒットとなった要因のひとつでもある。そのご都合主義的な説得力の無さを、これまではヴィン・ディーゼル=ドミニクの「人柄の良さ」だけで乗り切ってきた。「まあ、ドミニクさんがそう言うなら仕方ないか」みたいな感じである。しかし、このショウに限っては『ワイルド・スピード SKY MISSION』において、ハンという人気メンバーを殺害しているという事もあり、どうもモヤモヤした気持ちが拭えないのだ。「いくらドミニクさんが良いって言っても、こればっかりはねえ」と言いたくもなる。
本作では、ショウが複雑な家庭の問題を抱えており、生来は優しい人間である事を全編にわたってアピールしている。ドミニクだけでなくショウの「人柄の良さ」で押し切ろうとしている訳だ。この点はある程度成功していると言えるだろう。おそらく、本編次回作では「ドミニクさんもああ言ってるし、ショウって人も案外いい人らしいし、まっ仕方ないか」という風に、ファンも受け入れてくれるのではないか。
ただ、本作のSF的な設定は本編にどの様な影響を及ぼすのだろう。確かに、『ワイルド・スピード』シリーズは追うごとに荒唐無稽の度合いを増しており、『ワイルド・スピード ICE BREAK』でも「ハッカーってこんなに何でもできるのだろうか…」と思ったものだが、本作の設定はもはや一線を超えている。いくらスピンオフといってもその世界観は共有している訳で、ここまでくれば本編にもそれなりのスケールの敵、何だったら宇宙から飛来したエイリアンとか太古から蘇ったモンスターぐらい出さないとショボく見えてしまうと思うのだが…エイリアンに車が運転できるかどうかはともかく。
湯呑

湯呑