けー

ジェイクみたいな子のけーのネタバレレビュー・内容・結末

ジェイクみたいな子(2018年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ビッグバン・セオリー (The Big Bang Theory) でおなじみのシェルドン・クーパーを演じているジム・パーソンズが主演ときいて観た映画。

アレックスは弁護士をやめ、子育てに専念している。夫のグレッグは心理カウンセラーで穏やかな性格。夫婦仲は良好だ。二人の息子ジェイクは4歳。優秀なので才能を伸ばすためにも私立の小学校に進学させた方がいいと幼稚園の担任のジュディからアドバイスを受ける。金銭面からも2人はジェイクを公立の小学校に進学させるつもりだったが、知能指数測定の結果もよかったことから、グレッグにも相談し、私立受験を検討してみることにする。私立に通学する授業料を捻出するのは今の収入では厳しいのでジュディのアドバイスで奨学金の申請をしてみることに。書類の準備をしていくうちに、アレックスはジュディがジェイクについてある偏見をもっているのではないかと疑いだす。



進学、性的マイノリティー、女性問題など、デリケートな問題をとても丁寧に丁寧に描き出そうと試みていると感じられた。アレックスという女性の心理状態をとても綿密に追っていくのだ。しかし、この作業は作り手にとってもだろうが、見る側にとっても決して容易なことではない。

とても生々しく、辛くて苦い。そのほとんどが、なかなか口にだしては相談しにくいような心理だ。もしかしたら当人すらも無自覚かもしれないような心理。そこをじわじわとあぶり出す。ある意味、アレックスの夫であるグレッグのカウンセリングを見ているようだ。グレッグは患者から永世中立国のスイスとあだ名される、どちらの肩もたないカウンセリング医師だ、そして、この映画の視点はまさにそこに設定されている印象がある。

 アレックスは幼稚園の担任が息子のジェイクの私立への進学を勧めてきたのは、最初は豊かな芸術的感性や優秀さを伸ばすためであり、そのために最適な環境を整えるのは親の務めと受け止めるが、実はそれがジェイクが性的マイノリティーの兆しを見せているためではないかと疑念を抱きはじめる。しかし、彼女自身そのことを問題なく受け入れられているかというと複雑だ。彼女はこの問題と常に向き合い続けることとなり、そのストレスから専業主婦になったこと世間からの疎外感のようなものを強く感じるようになり、さらには弁護士というキャリアをあきらめたことへの腹立ちもつのってきてしまう。しかし、それは当人が自覚しているわけではなく、外からの指摘で不意に表面化する。したがって当人はまず憤慨し否定するが、冷静になってくるとふと自分が認めたくない気持ちに気がついてしまい、動揺する。この辺りがとてもリアルだなぁと思ったのが、慌ただしい日常生活の中では様々な要因がいろいろと重なりあっていて、思いもよらぬタイミングで化学反応を起こし、自分でも思いがけない感情が吐出する。その原因がどこにあるのか、じっくり立ち止まって掘り下げてみないと絡まった糸はなかなか解けるものではないが、そんな時間はない。そもそもそんな不快になるだけの作業に自分だって向かいあいたくない。

何かに対してアグレッシブになってしまう時、真の原因はどこに潜んでいるのか、そのことをこの映画は綿密に示そうと試みる。その試みを鑑賞することによって引き出されるものも、見る側の心理状況やその時おかれている状況にも大きくよるのではないかと思う。映画を見ながら、アレックの反応で、どこかしら思い当たる感情や場面に触れた人は、”自分だけではなかった”という安心感を見出せるのではないかと思うし、”だからあの時あの人はあんなこと言ったのか..."など理不尽にしか思えていなかった親しい人との衝突を理解できるきっかけになるのではないかと思う。

はっきりとは指をさして示すことはできない何か釈然としない不和による不快感。出口がどこにも見えないようなもやもやの中で、相手を理解したいという思いをどうにか手離さず、あきらめなかった時、アレックスとグレッグはついにジェイクと心を通じ合わせることができる。そこだけは救いなのだが、そもそも、固定観念や常識、偏見がおこす辛酸を味合わなくてすむ社会になるにはどうすればいいのか。そんなことも考えさせられる。

 ストーリーを追えば、そのスローな展開にイライラするかもしれない。私もこの映画を見るのは結構な苦行だったし、2度見る勇気も根気もない。だが、その時その時のメンタルをぐっと自分に引き寄せて一つ一つ考えていけばこの映画の良心と勇気と挑戦が見えてくる。そこに拍手を送りたい。
けー

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