140字プロレス鶴見辰吾ジラ

バハールの涙の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
4.0
【ピースサイン】

イスラム国に闘いを挑む女兵士とそれに動向する女性戦場ジャーナリスト。女兵士バハールは、性奴隷として捕まりまた息子とも断絶された。バハールを打ちのめす運命に抗う姿は絵画のように美しければ、届かぬ悲劇として切ない。

昨今の女性解放運動を狙った企画書を通すための企画にしては、冒頭とクライマックスの爆撃による粉塵の美しさや、トンネルの暗闇のプレッシング、女兵士たちの束の間気を紛らわす歌唱シーン、そして気高さを込めたピースサインと細部への美しさが際立ち、エンターテイメントとしての成立性は低い。バハール一行の脱出シーンと国境までの20メートルのサスペンスは特筆してエモーショナルだが、気がついたら決定的な死が彼女たちの傍を通り過ぎたり、マクロでなくミクロ視点ゆえの突然の爆破シークエンスたったり、非エンターテイメントとしてのシームレスさが皮肉にも本作を多くの人の目に届きづらくしている。

バハールを演じるのは「パターソン」の奧さん役の女優で、ここの美貌をエンターテイメントとして捉えるか、戦士としての覚悟の強さと取るかで本作の各自の品の在り方が変わってくる気がする。回想シーンで否応なしに背後に見える性奴隷としての悲劇を見せる、見せないの問題もあり、単なるゴアな戦争モノとしての品に収まるか、社会派作品ときての品に留めるかも駆け引きだったのではないかと思う。

しかしながら本当に熱量があるのは、中盤の静けさの中で歌われる彼女たちの闘いの意味であろう。ジャーナリストがポエム的に締めるが、彼女たちの歌の生命が~のくだりは決死という部隊の鮮烈な人生を物語っている。ワンカット、ワンカットに突き刺さるエモーションとバハールの過剰な美貌が虚構なような真実を際立たせる。