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存在のない子供たちのYYamadaのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.0
【ヒューマンドラマのススメ】
 ~映画を通じて人生を学ぶ

◆作品名:
存在のない子供たち (2018)
◆製作国:
 🇱🇧レバノン
◆主人公のポジション
IDを持たない貧困の少年
◆該当する人間感情
 絶望、憎悪

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・中東の貧民窟で暮らす12歳のゼインは、貧しい両親が出生届を提出していないため、IDを持っていない。ある日、ゼインが仲良くしていた妹が、知り合いの年上の男性と強制的に結婚させられてしまい、それに反発したゼインは家を飛び出す。
・仕事を探そうとしたがIDを持っていないため職に就くことができない彼は、沿岸部のある町でエチオピア移民の女性と知り合い、彼女の赤ん坊を世話しながら一緒に暮らすことになる。しかしその後、再び家に戻ったゼインは、強制結婚させられた妹が亡くなったことを知り……。

〈見処〉
①両親を告訴する。
 こんな世の中に僕を産んだから——
・『存在のない子供たち』は、2018年にレバノンにて製作されたドラマ映画。
・本作は、長編デビュー作『キャラメル』(2007)で高い評価を受け、「世界で最もパワフルなアラブ人100人」の女性トップに選ばれたことのあるナディーン・ラバキーが、貧しさゆえに、まともな愛情も受けることができない12歳の少年の目線を通し、中東の貧困・移民問題を抉り出したヒューマンドラマである。
・主人公のゼインを演じる、同時12歳のゼイン・アル・ラフィーアは、実際にベイルートのスラム街に8年住んだシリア難民。撮影は6ヶ月に及び、約2年にわたって編集作業が行われた。
・2018年の第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞を受賞している。

②結び…本作の見処は?
◎: 回想形式で描かれ、ゼイン少年が直面する苦難の連続は、ドキュメンタリーと思わせるほど生々しい。中絶に対するメッセージ性は描かれていないが、大人のエゴや快楽を子供世代に背負わせてはいけないことを痛感させられる。
◎:「いったい何が起こったのか?」…作中の転機となりそうないくつかのシーンを直接的な映像にせず、鑑賞者の想像を刺激するナディーン・ラバキー監督の力量が冴える演出も見どころ。
○: 自らも貧困の最前線にいるゼイン少年が、赤ん坊の面倒を優先させるため奮闘する中盤は、悲痛ながらも勇気を与えられる。
○: 救いがいのない作中にあって、序盤のゼインとその妹の関係性は、唯一人間的なシーンと感じることが出来る。
○: 実は名作揃いのレバノンの製作映画。本作でも、人種と宗教と貧困がカオスする街並みにリアリティーを感じることが出来る。
▲: 本作で描かれるレバノンの社会問題は、どこまでが事実であるのか、エンドロール字幕などで解説が欲しいところ。
▲: 乳児の泣き声のリフレインと苦難の冒険の連続は、鑑賞者の精神的な体力を費消させ、何回かの鑑賞中断を余儀なくされたのは、自分だけだろうか?

③本作から得られる「人生の学び」
・大人は、純粋で人間らしい子供から学ぶことが多々ある。
・だからといって、大人のエゴを決して子供に背負わせてはいけない。大人は、自分の世代で負の連鎖を立ちきる覚悟と勇気を持て。
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