垂直落下式サミング

西遊記 女人国の戦いの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

西遊記 女人国の戦い(2018年製作の映画)
3.5
「その葬る赤子は、救わぬのか。」

西梁女人国のおはなし。喉がかわいた三蔵法師と猪八戒が、女人国に流れる水を飲むと、二人は腹痛に苦しみ、まもなく腹がふくれる。なんとそれは、飲むと妊娠する子母河の水だった。女人国の女たちはこの水を飲んで子を授かるのだという。これを堕胎させる水を悟空が取りに行く事になるのだが、そこで悟空はオカマの仙人から問答を受けることになる。
「お師匠様には、天竺にありがたいお経を取りに行って、民たちを救う指名があるのだ」と力強く言ってのける悟空を見据えて、不意に真面目なトーンになり、仙人はこう切り出すのだ。
ひょうきんオカマキャラが急に核心をついてくると、反動で背筋が延びる。ちなみに、この如意真仙は牛魔王の実弟。中国妖怪の華麗なるエリート一族である。
三蔵法師は、女たちとの交流をするうちに腹の子への愛情が芽生え、中絶を躊躇うようになるのが、ジェンダー意識の高まった新世紀の西遊記。しかし、三蔵の気持ちは汲んだうえで、子供をつれて旅はできないと、無理矢理に水を飲ませるリアリスト悟空。男性妊娠したっていいじゃない。産むからには責任が伴うじゃない。そこんところ、現代的な道徳の解釈をしつつ、うまいこと見やすくなっていると思った。
面白かったのは、女人国の女王が男について書物で調べましょうって言うと、女の子がでっかい垂れ幕みたいなのを出してきて、トランポリンみたいなのに乗ってジャンプしはじめるところ。垂れ幕の上の方に書いてあるのを読むために、跳び跳ねなければならないらしい。梯子じゃダメなんか。なんか、俗世と隔絶された文化圏のヘンテコな習慣をみているようで、ばかばかしいけれどとても良かった。
メインは三蔵と王女のラブロマンスでありながら、なかなかコミカルなところが増えていて、崖を落下するところや、経典の切れっぱしを追いかけるところなども、楽しそうで好き。
前回はおとなしめだったコメディレリーフの猪八戒と沙悟浄も、関係性が出来上がった雰囲気となったことで本領を発揮。八戒は原作どおりに女好きの太鼓持ちで、すぐに天界時代の天蓬元帥の経歴を出して気を引こうとするバカ野郎なのだけど、役者の三枚目な風貌も相まって憎めない奴。
日本では河童の妖怪だとするイメージが強いため、ナヨっとした人が演じることの多い沙悟浄だが、本場中国ではマッチョ真面目バカなビジュアルというのも新しい発見。水の妖怪ということ以外には共通点はなく、河童のイメージは日本で受け入れやすいように意訳されて伝わったものらしい。
孫悟空の猿演技も秀逸で、細かい所作など素晴らしく、知性動物を感じさせる愛らしい挙動に感心させられる。このシリーズでは、馬の玉龍も同列の仲間判定なのがうれしい。