天豆てんまめ

騙し絵の牙の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
4.0
適材適所のキャスティングの勝利!

斜陽と逆転の狭間で足掻く出版業界のサバイバルゲームをテンポ良く楽しめる。意外性のあるクライマックスもいい。 

ただ、この映画もやっぱり手練手管の役者陣の演技合戦が見どころだと思う。

「罪の声」も書いた作家の塩田武士が大泉洋をイメージして「あてがき」した小説を、大泉洋主演で映画化しているが、逆に大泉洋らしからぬ怪しげ2枚目ぶりが光る。廃刊の危機に立たされた雑誌編集長を演じ、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿が面白い。

「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督のテンポの良い緻密な演出とセンスのある楽曲がいい。

そして、この映画を楽しめる1つのコツとしては、大泉洋と対照的な真っ直ぐ編集女子の松岡茉優の目線で物語を眺めることかな。父親役の塚本晋也監督(超いい味出す!)がやってるつぶれそうな書店を支えながら、自身が惚れこんだ原作と原作者に突進していく様は、何を考えているかわからない大泉洋より、感情移入しやすく、それがクライマックスのカタルシスを生む。

他にも謎の新人作家として登場する宮沢光魚と、モデルをしながらガンマニアと作家的才能をもてあます池田エライザもいいし、大泉洋と対照的な小説部門の編集長の木村佳乃や情報通の文芸評論家の小林聡美もいい味出すし、保守・佐野史郎と確信・佐藤浩市の経営陣を巡る闘いも面白く、そこにアメリカ帰りの次期社長候補の中村倫也の存在も効いている。そして、リリー・フランキーもいい。

今回一番笑わせてくれたのは、大御所作家役の國村隼。ナルシスティックな巨匠ぶりで、特に記念講演会でシャンソンを歌い始める場面は笑った。

こう書いていると適材適所のキャスティングが張り巡らされていることがわかる。

複層的な人間関係の中で、誰が味方で誰が敵か分からぬ中、いったい誰が最終的に勝つのか。

生き残りをかけて変わらざるを得ない出版業界の加速度的な変化もリアルだ。

何でもアリでグローバルに攻める大泉洋扮する速水と、自身の良心に従ってローカルで勝負していく松岡茉優の対称性が、今の時代を実によく表していて、この映画を観た後、企業勤めのビジネスマンもフリーランスの方も生きていくヒントのようなものを得られるのではないだろうか。

知的好奇心とエンタメミーハー精神をどちらも満足させてくれる快作だと思う。