天豆てんまめ

バイスの天豆てんまめのレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
4.2
超面白い。だけど、とっても怖い映画。影の政権支配者、ディックチェイニーの暗躍とその影響の凄まじさ。ただ、アダム・マッケイ監督は元コメディアンらしいトリッキーな演出により徹底したエンタテイメントになっていて全く飽きさせない。驚いたのは途中でエンドロールが流れたこと 笑 しかし、物語は続いていく。

とにかくこのメインの5人のモノマネ演技では収まらない迫力に満ちた演技合戦に痺れる。
ディック・チェイニー=クリスチャン・ベイル。もう、やばいです、目が離せない。
リン・チェイニー=エイミー・アダムス。彼女の信念と迫力が物語を動かす。
サム・ロックウェル=ジョージ・W・ブッシュ。愛嬌も喋りもよく似ている。
スティーブ・カレル=ドナルド・ラムズフェルド。ここまで強引な男かと驚く。
タイラー・ペリー=コリン・パウエル。これまた、そっくり。

権力、野心に果ては無い。そこに使命感はあるのか、理念はあるのか、私たちは大真面目に政治家をそのように信じる部分もあるのが、バカらしくなるほど、権力、野心の権化のような政治家も多い。特に国家を動かす首脳陣において。彼らは眼前に迫りくる危機に、現実的な判断を下さなければならない。一つの判断で何十万の人命が失われるきっかけになることもある。そのプレッシャーは想像を絶する。ただ、どこか心の深い部分の良心のようなものが麻痺している政治家がそれを愛国的合理として判断する恐ろしさを常々感じる。この映画で描かれるイラク侵攻がまさにそうだ。物語の冒頭、若きチェイニーが師、ラムズフェルドに理念を問うと、鼻で笑い、その後大爆笑して、扉を閉めた。語る価値すら無いかのように。

私は今は、あまり政治に興味はない。新聞の政治欄もほとんど読まない。でも、高校時代に、朝日、読売、毎日、3紙の自衛隊海外派遣の論調の違いを論文に書いたりしていた。国際ジャーナリズムに興味を持ち、大学は政治学科に入り、3年の時、国際政治のゼミの代表を務めたが、半年位経ったとき、ソフトパワーやテクノヘゲモニーといった覇権の趨勢にまつわる「歴史は繰り返される」空しきパワーゲームに興味を失ってしまった。そこからは映画やアートにばかり心惹かれるようになり、当時、共同論文を作成していたゼミ友とは話が合わなくなり、そのままマスコミ志望に転向した。

あれから、20年近くが経ち、アラフォー世代となった今、あの時、一緒に論文を書いた友人の1人Aは、自民党の衆議院議員をして副大臣まで上り詰めた。もう1人のBは元民主党で無所属のまま、県会議員の再選に2年前に残念ながら敗れ、それからFacebookを一切更新していない。彼らとは卒業以来、同窓会で会うくらいだが、Aの披露宴に出た時、小泉、安倍、石破3名揃い踏みに異様な印象を受けた。一度Aからは当時、映画会社の企画部にいた私に映画化してほしい政治ノンフィクション本を紹介されたことがあったが、興味が出なかった。おそらく道を違えたAとB同士も同じ政治の舞台にいながら、卒業以来会っていないようだ。ただ、大学時代に彼らの口から理念や使命感が語られていたことは記憶にない。どこかこの変わりゆく時代のパワーゲームにワクワクしているように見えた。彼らは道半ばで今も政治の世界で闘っている。

この映画を見ながら、彼らが政治の世界で生き続けるエネルギーの根源は何なのか、大真面目に聴いてみたくなった。学生時代じゃあるまいし、、そう一蹴されるだろうか。いや、熱く理念を語ってくれるだろうか。

ある特権的な立場と緻密な戦略を得た時の1人の人間のパワー。それを最大限に生かしたディック・チェイニーの恐ろしさと、その破壊的な影響力の恐ろしさをこの映画で改めて感じた上で、今日の世界のニュースを見ると違ってみえてくる。その背景に蠢く、様々なパワーが浮き彫りに見えてくる。今も、限られた何人かのパワーで、私たちが気づかぬままに、世界は、日本は、動かされている。

そんな権力者たちを羨ましいと思うだろうか。私は全く思わない。恐ろしいとは思うが。ただ、できるだけ透明に澄んだ目で彼らの芯を見る👁は持っておきたい。それでささやかでも自分が信じられる選択をしたい。

後はただ、彼らが権力闘争している人生の時間、できるだけ私は家族と映画に、身を浸して生きていきたいと、心から思う。