垂直落下式サミング

ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.4
カリフォルニア州に現存する幽霊屋敷「ウィンチェスター・ミステリーハウス」にまつわる実話を映画化。
ウィンチェスター社は、銃に詳しくなくても名前を知っているような、コルトと並ぶアメリカの老舗銃器メーカー。同社製のウィンチェスターライフルはロングセラー商品であり、古い西部劇にもよく小道具として登場する。
最近のアメリカハリウッド映画は、空前のコミックヒーローブームだが、実はホラーも地味に調子がいい。『死霊館』『ドントブリーズ』『ゲットアウト』『イット』など、公開されるものが立て続けにヒットしている。お気楽な勧善懲悪が行き過ぎると、おぞましい呪いを対にしてぶつけて、それで釣り合いを取ろうとする変な文化を持っている国だ。
思うに、アメリカという国にとっての神話は西部劇で、その対になる物語がホラーなんだと思う。移民による人工国家アメリカには、「アーサー王が岩に刺さった剣を引き抜いた」とか、「イザナミとイザナギが矛で混沌をかき混ぜていたら島ができた」とかいうような、自分の国が神に選ばれた国だと信じるに足る綺麗な昔ばなしというものが存在し得ない。
結局のところ、アメリカの建国史を素直に遡っていけば、「原住民族を騙して土地を奪った」とか「黒人を奴隷として働かせて富を築いた」ということになってしまうのであって、その本音を自らのアイデンティティの中心にはどうしても置けないでいる。フロンティアスピリットを信仰することは、略奪と虐殺を認めること同義だからだ。
だからこそ、大衆文化は勇敢な正義のヒーローの物語を「信じられる神話」として形作り、皆がそれを信じて大切にする。そして、その力によってしいたげられ排斥された者たちの怨念に触れたものが、その勇気を試されるといった怪談もまた「神話の裏側にある真実」として受け入れられている。
本作は、残酷大陸の底流に流れる「正義」と「恨み」そして「銃」の関係を見事に描いていたと思う。