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犯罪都市のkuuのレビュー・感想・評価

犯罪都市(2017年製作の映画)
4.2
『犯罪都市』
原題:범죄도시.
英題:The Outlaws.
映倫区分G.
製作年2017年。上映時間121分。

マ・マブリーことドンソク、ちがったマブリーこと、マ・ドンソクの真骨頂韓国ノワール主演作品。
警察と韓国ヤクザ、中国マフィアが繰り広げる三つどもえの抗争を描いたクライムドラマ。
共演はユン・ゲサンほか。

ソウル南部・衿川(クムチョン)警察のコワモテ刑事マ・ソクトは、人柄と腕っ節の強さでヤクザ同士の争いも解決してきた。
しかし近頃、中国の犯罪集団『黒竜組』が進出してきたことから、街のパワーバランスが大きく揺らぎ始めていた。
黒竜組は地元ヤクザのイス組の縄張りを次々と荒らし、マ・ソクト率いる警察の強力班は黒竜組の一掃を試みるが、復讐に燃えるイス組の介入によって事態は三つどもえの争いに発展していく。

実際に起きた事件を背景に、脚本家のカン・ユンソンは、厳しさの中にも色鮮やかなエンタメ性を備えた犯罪スリラーを印象的な長編映画のデビューを飾ったんちゃうかな。
2007年にソウルの悪名高いガリボンドン地区で起こったギャングの縄張り争いのように、カン監督は、金貸し、ギャンブル、売春などの儲かる犯罪の世界に入り込むために、残忍な手段を恐れない冷酷な中国人ギャングの参入を中心に映画を作ってました。
冒頭のシーンじゃ、幾ばくかの借金から10倍近くの支払いを要求し、泣いて土下座すワビを入れる(寛大な処置を求める)債務者の手首を叩き折るシーンはかなり迫力あった。
チャンは、金峰警察の重犯罪課に所属する、タフで心優しいマ・ソクド(ドン・リー、通称マ・ドンソク)と対決することになる。

マ・ソクト演じるマブリーも今作品も勿論よかったが、何よりも、
チャン演じるユン・ゲサンは、かなりこの作品を引っ張ってく巧みなヒールを演じてた。
音楽グループのメンバーやって後で知ってビックリ。
邦楽のアイドル系の誰がこないな役を出来るやろか?
みた感じはお騒がせ炎上キャラ・シバター(実際はそないに悪い人ではなさそうやけど)を数倍男前にして、日焼けした顔に殺伐とした目つき、自由自在に駆使する延辺(ヨンビョン:中国にある朝鮮族自治州) の方言、睨まれたらブルッち舞いそうな感じ。
SNSは炎上させないが、ソウル南部・衿川をかなり炎上させてた。
胸糞な役柄やけど、迫真の演技に脱帽かな。

マブリー演じるマ刑事は、チャンとは対照的に、白昼堂々と公道でナイフを振り回している2人の男に、携帯電話を操作しながら近づき、汗もかかずに武装解除してみせるが、見せてくれる、普通の俳優ならアリ得んやろえんやろってシーンやけど、マ・ドンソクならアリそうやり、アリかな。
この地域に根付いている様々な中韓系ギャングを排除するのではなく、マ刑事のアプローチは、彼らの間のパワーバランスを維持することで彼らを受け入れてきた。
チャンの登場により、この壊れやすい平和は明らかに崩壊。
この凶悪な元チャンウォンのギャングは、競争相手を刺し殺す(そして地区中にバラバラにして処分する)か、他のギャングを互いに対立させることで対処する嗚呼怖っ。

冒頭のタイトルでは大規模な掃討活動が行われているように見えるけど、実際に行われとんのは、マ刑事とその上司であるチョン警部(チェ・グルファ)が仕組んだ戦術的なプレー。
マ刑事は、ソウル警視庁の殺人課に事態の主導権を譲られないように、自分たちが主導権を握っていることをPRすることを上司から強要されている。
マ刑事の計画は、地元の商店主の協力を得て、チャンのブラック・ドラゴン・ギャングの情報を収集するというものやけど、報復の恐れを克服するには説得が必要である。
加えて、観てる側はマ刑事とチャンの一騎打ちを見ることができ、その衝撃的なシークエンスは激しく、手に汗握るから、こないな作品が好きなんで、かなり楽しめた。
驚くことではないが、ストーリーテリングは、ギャングのボスであるアン・ソンヒの残忍な殺人事件をマが捜査するという、手続き型のテンプレートにほぼ沿ってる。
このテンプレートだけならなんちゃない作品やろけど、韓国映画は一味も二味も違うから不思議。

事件を追う、その間には、
マ刑事と部下たちとの仲間意識、
チームに加わった新参者刑事ホンソク(ハジュン)の成長、
繁華街の歩行者天国で屋台を営む10代の少年とマ刑事の親子のような関係、
などなど、キャラの人物像が描かれている。
これらのシーンじゃ、マ刑事の妥協のない強面ポリスでありながら、はっきりとした優しさを持ったキャラが戯画化されたものではなく、予想外の感情的な重みを持ったマ・ドンソクの質感のある演技によって高められていた。
チャンはマ刑事に比べて、悪を突っ走る妥協なく突っ走る。
どちらも演者は神がかりのように個人的には感じた。

一方で、脚本家であり、監督でもあるカン・ユンソンは、本物を見極める能力に長けてんなぁと思う。
酒場、
焼肉屋、
路地裏、
刑事部屋の仮設コンテナに至るまで、すべての設定が生き生きとしていてリアル(リアルに感じるかな実際知らない異国やし)。
カン監督はまた、様式化された戦闘シーンを避け、実際に起こった乱闘を描いている。
先日あった、ゴマキの弟が、朝倉未来にボコられたシーンの様に(気になる人はYouTubeとかで抜粋シーンが観れます)
その結果、このような骨太の犯罪映画にふさわしい、満足のいく、昔ながらのアクションが生まれたんやろな。
実際、個人的ながらカン監督のデビュー作には称賛すべき点が多く、物語の洗練度に多少欠けていても、迫真のリアリズムで補っている。

また、カン監督には辛辣なユーモアのセンスがあり、ストレートに語るべき時と、作品に笑いを与えるべき時を的確に把握していることも助けになっている。
もちろん、このような状況下では、マ・ドンソクのデカめな主役と相対するユン・ゲサンが輝きを放ち、今作品は彼らのおかげで、より生き生きとした魅力的な作品になってました。
めちゃめちゃ良かったです。


韓国で暗躍する外国人組織暴力団のうち半分以上は朝鮮族を主軸とする中国出身だそうで、中国本土でも有名な『黒社会』のメンバーが韓国に入ってきていくつかの組織に分かれ、その中で代表的な組織が
『延辺黒社派』、
『黒龍江派』、
『ヘビ派』、
『カボチャ派』。
このうち、悪名高かった延辺黒社派が『犯罪都市』のモチーフになったそうです。
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