むっしゅたいやき

ジョニーは行方不明/台北暮色のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

4.0
随分メタファーに富んだ作品だなぁ、と云うのが第一印象である。
台北─、都会に住まう人々が、其々孤独を抱え、傷付きつつも、猶人と交わる事で希望を見出して行く姿を表した物語。
押し付けがまじい雄弁さは無く、作中人物のぽつぽつとした語りや行動、メタファーで、鑑賞者の心水に波紋を起させる類の作品である。
監督はホアン・シー(黄煕)。

本作の特徴として、先ずキャスティングの妙が有ろうかと思われる。
ヒロイン役のリマ・ジタンもフォン役のクー・ユールンも、見事な迄に“都会に住む、疲れて退屈した孤独な若者”の、等身大の姿・生活感を表出させている。
二人の背負う背景、孤独感が見る者へ実感を伴って伝わる為、ラストシークエンスでの二人による掛け合い、走り征くテールランプに、鑑賞者は希望を見出す事が出来るのであろう。
その舞台となる高速道路のジャンクションもまた、人との交差を示すメタファーである事を考え合わせると、より一層この感は強くなる。

作中幾度となくファンが口にする、「人との距離が近過ぎるんだ」と云う台詞に関しても、監督は自転車で波紋を起こした水溜まりのショットにて我々へ訴え掛けている。
二つの波紋の中心が近ければ近い程、衝突する波は高くなる。

尚、一点個人的に心残りな点として、三人の主役の一人であるリー少年の真意、作中でのレゾンデートルを汲み取れ無かった点が挙げられる。
兄に何らかの事件が有り、それが末尾のフォンへの問いとなっている点は窺い知る事が出来るのであるが…、読解力不足にて無念である。
ただ、「水溜まりの静水を自転車で突っ切りたくなる気持ちだけは、大いに共感出来る」、とだけ言っておこう。
これから梅雨、小糠雨の日にでも静かに観たい作品である。
むっしゅたいやき

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