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シュガー・マウンテンのtwinのネタバレレビュー・内容・結末

シュガー・マウンテン(2016年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

【概要】
金を得るため、極寒の山で遭難した男を演じることを決意した男と、その弟と恋人たちの関係を描くヒューマン・ドラマ。

【あらすじ】
雪山の麓で兄と共に暮らすリアムは、ある日母から受け継いでいた船"バイキング号"の停泊料を支払うことができなかったために、港湾局により仕事の許可を剥奪されてしまう。仕事を失った彼に町の人たちは優しく声をかけるが、母の遺産をどうしても失いたくない思いから、兄のマイルズが提案した遭難した男を演じてその体験談をテレビ局に売るという話に乗ることにする。しかし、そうして始めた偽りの体験談の製作は、彼らを思わぬ運命に巻き込むことになる……。

【初めに】
昨日ボリビアの奥深くのジャングルで遭難した男の実話を描く「JUNGLE」を鑑賞した流れで、サバイバルものを続けて観たいと思い鑑賞した作品。

が、実際にはゴリゴリの人間ドラマで、サバイバル要素はほぼなし。NetFlixのあらすじにまんまと騙されてしまった。

そしてまた、内容が凄い。
まず登場人物がほぼ全員アホ。展開がスピーディな割に説明が足りないので、とにかく雑。そんな理由で物語に没入することができず、もちろん登場人物たちに感情移入することもできなかったため、悪い意味で期待を裏切られてしまった。

あらすじとのギャップは凄まじかったのだが、いかんせんそれが悪い意味で目立つので、お世辞にも良作とは言えない出来である。

【ストーリー】
物語の導入部では、兄弟であるマイルズとリアム、そしてその幼馴染であるローレンの関係を描くところと、リアムが維持していた船による仕事を奪われたところから、彼らが金銭的に困窮する姿が描かれる。

また、兄であるマイルズの奔放な性格や、弟であるリアムの主体性のなさ、金にだらしないマイルズと付き合い続けるローレンの姿といったように、彼らがそれぞれ抱える人間性を垣間見ることができる。

そして、リアムの船を取り返すために、マイルズは自身が雪山で遭難し、そこでサバイバル生活を営むことで生還するという体験記を作り、それをテレビ局に売ることによって大金を得る作戦を提案する。この時点でそんなにうまく話が運ぶか? とか雪山の洞窟ってそんなに遠かったの?(作中の描写ではそこまで遠くも感じられない)とか、色々と疑問符を浮かべるような展開が続くのだが、この辺りの展開がスピーディすぎて、いまいち付いていけない部分が多かった。(冒頭でマイルズの絶望を描いているところも意図が読めず。本作の結末であれば不要だったのでは? と思ってしまう)

マイルズの作戦の端緒である酒場での兄弟喧嘩のシーンも、まあ演技なのだろうなと思えなくはないのだが、結構唐突に繰り広げられるし、その直前に刑務所から出所した荒くれ者とのひと悶着があって、このシーンで何を描きたいのか? という点がブレてしまったりと、物語の構成が鑑賞者に優しくないのだ。

観賞者としての私のスペック不足によるところもあるかもしれないが、マイルズが雪山で遭難するまでは、展開に動きがあり、その後場面が変わってからその展開の意図が伝わってくるような箇所が多かったので、余計なことを考えてしまうことが多かった。

リアムがナイフを買いに行くくだりのところも意図が伝わってこなかったし、その後、ナイフを購入した事実をローレンの父親から尋ねられた際に言い淀むのもよく分からない。(これはマイルズとの関係を怪しませるためだったのか? その後も特に触れられていないため、とにかく分りづらい)

また、マイルズが遭難して以降、遭難した事実をでっち上げるはずだったのが、本当に遭難してしまい、マイルズのサバイバルシーンについても触れられるのかなと思ったのだが、そんなことは全くなく、ひたすらリアムとローレンが壮絶な遭難の体験記を完成させるために暗躍している姿を見させられることになる。これはこれで見どころはあるのだが、その見どころも大したものではない。

・ローレンの母親がマイルズの捜索中に事故に遭って入院
 →リアム達はこのような形で他人を巻き込むことになるとはまったくもって考えていなかったようだ。アホポイント①
 
・フランスへ留学する予定のアンジーがリアムのために渡航をキャンセル
 →アンジーの人生を思わぬ形で変えてしまい、リアムは焦る。アホポイント②
 しかも、そこでアンジーとの濡れ場が少しだけ描かれるが、それ以降アンジーはほぼ登場せず、リアムとの関係がどうなったのかも結局分からない。キャストの使い方が雑である。
 
・マイルズが帰還する予定日になっても帰ってこなかったため、リアムとローレンは彼が遭難中に使用するはずだったシェルター(洞窟)に向かい、マイルズが本当に遭難してしまっていることを知る。その後、失意の中で二人は身体を重ねる
 →リアムがローレンのことを密かに想っていたことは物語の当初から描かれているが、ちょっと短絡的過ぎるだろと感じてしまった。あるいはそういう人の愚かさを描こうとした結果なのだろうが、残念ながら共感も理解も及ばぬ話だったので、単なるアホとしか思えなかった。更に言えばあそこまでねっとりと濡れ場を描く必要性があったか? と思ってしまう。アホポイント③
 
・更にローレンとの情事がローレンの父親にバレる。それどころか兄のマイルズにもバレる
 →言い訳も何もしない二人の様子がひたすらシュール。まあ、実際あの状況でマイルズにかける言葉などないかも知れないが、この辺りから遭難の捏造の話ってサブ的な要素だったのだなと思い始める。
 
・マイルズは実はリアムの船を担保に借金をしていた事実や、マイルズが考案したかのように思われた遭難捏造計画が、実はローレンが考案したものだということが明らかになる
 →この辺から新たな事実が出てきまくって、もう滅茶苦茶。人間関係は破綻していく。
 
・山で死に瀕したことにより、改心したマイルズが遭難体験記を売らないと言い始める
 →リアムとローレンの苦労はどうなるのか? その上自身が抱えているであろう借金は? 正しいことをするというのであれば、既に借金の担保にしてしまっている船をどうするのか? と「???」とさせられる展開。アホポイント④
 
・マイルズから金を徴収するため、荒くれ者が襲来。リアムを人質にマイルズを強請るが、マイルズの逆襲により危機は回避できる。しかし荒くれ者を逆に殺害してしまう。かと思えば、荒くれ者の襲来は、マイルズの考えを変えるためにリアムが金を払って仕組んだ事実が発覚。瞬間的にローレンが死体の隠ぺいを提案(こいつやべー奴だなと思わずにはいられない)アホポイント⑤
 →もうこの辺からは急展開に急展開を重ねるような構成で、無茶苦茶だ。遭難の捏造さえしなければこんなことにはならなかったのに。という後悔を描きたいという意図は分かるが、それぞれの登場人物たちの思惑が色々と飛び出てくるので、息を吐く暇もない。
 
・死体を隠ぺいしようとしたところ、それがローレンの父親に露見。そこでローレンは父の過去の浮気相手がリアムの母親であったこと、更にはリアムの父がローレンの父親であった事実を暴露する。その直後、ローレンの父親は実は生きていた荒くれ者に殺害される
 →やりたいこと全部やり切ったな~という清々しさはあるものの、これを描くためだけにローレンの父親が浮気していたという設定が生まれたのだろうし、繋ぎ方が雑だな~と思わざるを得ない。その事実をばらまくぞ、という脅しで警察官を言いくるめられると思っているローレンの神経も意味不明だし、その時点で自分がヤバいことに手を染めていることは自明なのだから、それを父親が放っておくはずもないだろう……。アホポイント⑥
 
※他にもアホポイントあったら教えてください

こうやって書き出すだけでも急展開が重なっていることがよく分かると思うが、約2時間でこれだけの展開を埋め込もうとしているのだから、それは展開が早くなる訳である。

マイルズが遭難中に撮影した映像でサバイバル要素は若干あったが、それが製作者の「本作にもサバイバル要素しっかりありますから!!」という言い訳じみた主張にしか見えず、心に響くことはなかった。

マイルズの心変わり(死を覚悟した際に母親に再会するというサードマン現象による)も一瞬で打ち砕かれた(死体遺棄を実行しようとしているし)し、リアムとローレンの浮気もそうだが、登場人物たちの考えに一貫性がなく、理解に苦しむ展開が多いため、物語全体が主柱を持たないままに進んでしまっている印象を受けてしまった。

唯一、結末だけは良かったかなと思う。
「お前はどうする?」とローレンが考え出したストーリー通りに証言を行ったマイルズの問いかけは、リアムの考え方次第では真実を打ち明けられたとしても構わないという覚悟が感じられたし、今まで兄の言いなりになって生きて来たリアムに酷薄な決断を促すシーンとなっていて、想像の余地がある。とはいえ、彼が真実を証言するとは思えなかったが……。

【演出】
主人公である三人の絆だったり、関係性を描くために用意された過去の回想シーンも取ってつけたようなものであったし、ストーリーに対する感想のところでも書いたが、キャストの使い方が雑であったり、展開が煩雑でありながら、それを演出でカバーできていない面が目立ったため、演出としての加点要素は一切ないかなと思う。

というより、演出で語るほどの内容がなかったとも言える……。本作のような形でヒューマン・ドラマを形作ろうとしたなら、ローレンの心情やリアムの心情などの心理的な描写にもっと力を入れるべきであったと思う。

【総評】
散々書いた通りの理由で、総評としては、煩雑な物語と希薄な演出により、楽しめる要素のない映画だったと思う。登場人物たちの浅はかな考えや、彼らの愚かな行いを笑うことができるという意味では楽しめるかもしれないが……。

とにかく、こうしたヒューマン・ドラマで登場人物に感情移入できない点は、個人的に致命的なので、この評価とした。
サバイバルメインかと思いきやのヒューマン・ドラマ、というギャップで0.5加点といったところか。
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