阪本嘉一好子

レモン・ツリー(英題)の阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

レモン・ツリー(英題)(2008年製作の映画)
5.0
誰もレビューを書いていないので長くなるけどあらすじを書いて説明する。イスラエルに住んでいて、ユダヤ人に、それに、パレスチナの古い慣習(人間、男女関係)に問題提起をする映画は素晴らしい監督の証拠。没入感の高い映画である。独断と偏見でレビューを書いている。

イスラエルとウエストバンクのグリーン・ライン(戦争両国の境目)にあるレモンの木が論争になる。場所はイスラエルの北側でZur-HaSharon というところで、まず、引越しの車と、防衛長官(Doron Tavory)の妻、ミラ(ロナ・リパズ・マイケル)がここの新居に移ってくる。なぜここにと思えるような場所を選ぶ。そこが、パレスチナ人地区とユダヤ人地区の間。

Salema(ヒアム・アッバス)の祖父と亡き夫が残した、レモン畑の管理をしているが、イスラエル軍のシークレット・サービスと軍がこの防衛長官の新居の警備にあたるため、鉄塔をたて、見張り番を置いている。鉄塔の下ではサレマと代々雇われ人がレモンの木を世話をしている。
イスラエルの北に緊急事態が発生しているので警備が厳重になっている。テロリストを警戒している。サレマと長年の使用人が動くだけで、イスラエル軍も銃を向ける。イスラエル軍からサレマのレモン畑を買い取りたいと。サレマはヘブライ語が読めないから、ウエストバンクのKalkulyaの男だけがあつまっているカフェに行き、土地の長に軍からの手紙を読んでもらうが、土地を買い上げられても土地代金は軍からもらうなよと念を押される。
サレマの息子はアメリカのワシントンDCで皿洗いをしている。彼の収入をあてにしなければならないが無理だとわかる。それに、娘もなかなか会いに来られないようだ。

この映画では三審制度の最高裁まで見せてくれるのがいい。イスラエルは三審制度を取っているが、ユダヤ人のための三審制度で、ウエストバンクにあるイスラエルの市民裁判所(Civil Administration)ではパレスチナ人のサレマの話を聞こうともしない。 『こんなのは小さい問題だ!!補償金を払ってるよと。』と。ここで、ウエストバンクにあっても、イスラエルにおけるユダヤ国の独裁が伺える。

ラマッラー(パレスチナ)の北にあるJALAZONE RFUGEE CAMP(UNRWA)に行って、弁護士、ジアード(アリ・スリマン)に会う。しかし、この弁護士はロシアから戻って2年経つが、うだつが上がらないような人に見える。彼女にオレを雇うなら連絡をくれと。 私はこの弁護士がすぐ気に入った。なぜかというとイスラエル軍との訴訟は難しいと現実を伝え、その次に、自分は離婚訴訟しか扱ったことがないと。この透明感のある言動で好きになった。それに、そのあとをよく見ているとわかるが、彼はパレスチナ上層部に顔がひろい。でも、媚を売って出世したりしないから、離婚訴訟しか扱っていないと思わせる?

その後の裁判でも、ジアードは50年も住んでいるが銃の音さえしない、安全なところ。今になって、なぜ、サレマの土地を買い上げている。安全な場所なのにと交渉に入る。結論はここでも補償金を払っていると。
(この論争の私の理解は不十分である。なぜかというとIntifadah Act 2000年9月の資料が膨大なので読んでいないから。

2000 年 9 月 29 日金曜日、エルサレムの旧市街、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区でパレスチナ人の暴力が広範囲に及んだ。草の根の抗議行動と暴力はすぐに、バス、レストラン、街の通りでイスラエルの民間人を標的とした致命的なテロ活動に変わリました。これらの攻撃で 1,000 人以上のイスラエル人が死亡し、数千人が重傷を負いました。ーーイスラエルのADLの一部より、翻訳機にかけた。

ここで、サレマの凄さを見る。弁護士は諦め気味だが、(体制にまかれるタイプに思えてきた。諦めていると思う)サレマはヘブライ語がわからず、法廷のやりとりをを理解していない。そして、弁護士が時々通訳を入れているが....
サレマ『最高裁に行く』
弁護士『これはどういう意味か知ってるの?」
サレマ『いいえ、知っていることは自分の悲しみを共有できること』
参った!!参った!’サレマの強さ、自分の抱えている問題は自分だけの問題じゃない。パレスチナの人々の問題であり、こういう例はいくつもあり、みんなイスラエル権力下の中で泣き寝入りしている。現実を見ているんだよ、彼女は。その胸が締め付けられる思いの一例を世界に共有したいと思って言っているんだよ。
参った!この一言にびっくりして、『ふっ、なに? どういう心境?』と最初字幕を読んで思ったよ。 弁護士は『我々は大きな困難に立ち向かっているが、誰も、サレマを助けてくれない』と吐息を吐く。ここで二人の絆が強くなる。
ここで、弁護士、ジアードの物の見方がかわってくるところがいい。自分はロシアにおける過去から逃げていた。自分に正直で強くなる必要性に気づき、この裁判が終わったら、ロシアに置いてきた娘に会いに行くとサレマに伝える。しかし???

ユダヤ人のイスラエル防衛長官と伴侶ミラの行為だが、防衛長官をよくもマスコミにこれだけ嘘をつけるなと思わせる人物に描いている。ちょっと最近なくなった閣僚を思い出してしまった。シークレット・サービスがレモンの木を切っているが自分は反対だと言ったとか。。次から次へ嘘が飛び出てくる。テレビでも虚偽発言をおこなっているから、伴侶、ミラの夫に対する不信感がつのる。この女優はこの変化を上手に表現している。

イスラエルの防衛長官の言動や妻の夫に対する不信感や、グリーンラインを超え見えるパレスチナ人とユダヤ人、サレマの行動などが、ユダヤとパレスチナの両方を交互に映し出していて、はっきり言って、両方が明確にわかる設定になっている。貧富の差だけでなく、役者もパレスチナ側とユダヤ側の区別をわかりやすくしている。それに、ありがたいことに、パレスチナやイスラエルの地域も字幕が出るのでどこかがよくわかるようになっている。また、この映画は現実に起きたことを話題にしているので、私のように、インティファーダIntifadah (イスラエル創立で追放されたパレスチナ人の対イスラエル抵抗運動)ACTを知らなくても、人間関係が掴めるし、感情移入できる作品に仕上がっている。それも、防衛庁長官は今まだ生きているシャウル・モファズ(Shaoul Mofaz, Israeli Defense Minister 2002 - 2006)であると読んだ。彼の行為は全て証明されてはいないらしいが...まあ、この人は今生きていて、私の決断でこの事件が起きたといえるほと『自分に正直で強くなれない』でしょう?多分。この防衛大臣の時代はパレスチナの危機感からインティファーダACTが大事だったに違いない。

レポーターが「レモンの木」の話を嗅ぎつけて、サレマの自宅を訪れるシーンから別の展開になってくる。この新聞社のレポーターは現在もある、Yesdit Ahronot紙のタマーで、ミラと友達である。ヘブライ、アラブの両語を話せる。出されたレモンジュースに『美味しい』とコメントを。ここで爆笑してしまって失礼だが、サレマは『防衛長官がレモンを盗んだ』と。許可なしに侵入してレモンを取ったと。
奥さんのミラさんはごめんなさいと謝ったと。防衛長官としてみたら、レモンなんて、なんとも思っていない。この落差がおかしくて!
でも、この意味は、ユダヤ人か勝手にパレスチナ人の土地に侵入していることを示すと思う。
防衛長官が何をしようがこれはユダヤ人を守るだけ。ミラはイスラエルは決して、スギのような子供の里親にならない。(この理解が? パレスチナの子供の里親にならない?ミラは受け入れたことがある?)
レポーターの二人へのインタビューがYesdit Ahronotの新聞の一面から特集にのる。ミラの言葉で『イスラエル(ユダヤ)は限界を知らない』が一面に。この意味はユダヤ人はパレスチナに対してなんでもやるということだ。防衛大臣の奥さんの言葉だからねえ。ミラは今まで言いたいことをかなり躊躇していたが。。。防衛大臣はミラはそんな馬鹿げたことを言わない、新聞社を訴えよと。妻のこと知らないんだねえ。

弁護士は、この機会を逃さず、アルジャゼラ、エル・アラビヤ・MBCなどの他のメディアにコンタクトをと。利口な立ち回りだね。ここで彼は名声を上げていく。

イスラエルTVに防衛大臣が出演。コメディー・ショーだね。司会者は『レモンの木について話そう』
と。レモンが怖い?と畳みかける。レモンの木はパレスチナ人の喩えだから。社会の関心はレモンに。それに、海外のメディアまで。ワシントンDCにいる息子はレストランでこの話をテレビで見る。

最高裁に行っても、結局、サレマの思う通りにの、父、夫のレモンの木の果樹園は守ることができなかった。最高裁は全く聞き入れる気はなく、判決は:
弁護士はマスコミの前で、英語で、裁判でイスラエルに勝利したようなことを言ったけど、(この時、サレマは何も言っていることがわからなくても理解していたと思う)記者からアラブ語で言ってくれと言われた時、弁護士は『50%のレモンの木は高さ30cmに切ること。そして、見晴らしを良くすることで決まったと。モスリムの長老と同じく、波風たてず、ユダヤの言うことを聞き入れ、少し我慢しても現状維持をして生きていくという生き方。これは弁護士や長老。

サレマは自分の生き方決めた。 声を上げたことは無駄ではなかったことは知っている。でも、また、心が閉ざされてしまった。

ミラは新聞で語ったことは嘘だとサインをさせられ、家を出る。物事をじっくり観察して結論を出す賢い人ね。
防衛大臣は家の前に壁を作って壁の向こうにある三十センチの丈のレモンの果樹園を見ることもできない。壁を作るならなぜレモンの木を切らせた?無意味なエゴ!
弁護士、ジアードは人間冥利に尽きる体験から、何も学ばなかったように見えるが、出世・名声だけをあげて、ある有名人(?)と結婚する。彼の言葉の『サレマの半分の勇気があったら』と言う望みだけの言葉だけでは。自分がどう行動するかによって決まってくるのに。この人はこのままでは人間性を失って、欲の亡者になるように見える。

「レモンの木」が登場人物に壁を作ってしまった。たかが、レモンの木と思うかもしれないが、深い歴史、パレスチナとユダヤの歴史があり、レモンの木はこの経緯から始まって、その前六十年間も含めて、全てを見ている。

追記:
イスラエル生まれのエラン・リクリス監督だが、海外各地での生活が多いようだ。それに、イスラエル軍で1973年のヨンキポー戦争に参加したようだ。この監督はパレスチナの街ををどこで、撮ったんだろう。問題はなかったのか調べてみたい。シリアの花嫁を見たことがあるが、もう一度見てレビューを書いてみたい。