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女王陛下のお気に入りのhorahukiのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.4
嘘をつかない…それが愛よ!

劇場で見たかった作品なのですが、先延ばしにしてたらいつの間にか上映終わっちゃってガッカリしたやつ。

お話の骨子は『聖なる鹿殺し』と同様にホームインベージョンスリラー。平穏な「家」の中に持ち込まれる泥。「家」を塗りかえようとする泥という「悪」と、泥を洗い流し平穏を保とうとする「善」のせめぎ合い。そして視点を「家」という中から外に向けると善悪が転換されてしまうという面白い構造の物語でした。

究極的にパーソナルで利己的な目的へ向けて極めて正直に突き進んでいくキャラクターたちを待ち受けるのは意図したものと全く違う結果。その箱の外観と中身のギャップが黒い笑いへと昇華されるブラックコメディ。さらに彼女たちの影響力の強さがそれに拍車をかけ、超個人的でどーでも良いことが国全体・国民全体の命運を左右しちゃうという、これまたギャップが滑稽。本作はそういった意味ではセカイ系ストーリーなわけです。

天界から墜とされた堕天使であるアビゲイルが再び天界へと舞い戻ろうとする。それは並大抵のことではなく、あらゆる手段を講じ作中でも語られる通り道徳なんて甘ったるいものに縛られない悪魔と同等の存在として彼女は行動する。悪魔として行動する彼女は当然ながら…な結果を生み出し、彼女の言う「レディ」とは程遠い箱の外観と中身のズレに愕然とする。

本作は覇権争いとしての外観、国としての外観、城としての外観、地位としての外観等々、そういった外と中のズレや温度差を物語の根幹に多面的に配置することで、それぞれの中身にフォーカスを当て「人間ってアホだよね」という自嘲めいた冷めた笑いをとことんまでに観客に齎してくれる悲劇めいたコメディ映画なのだろうと思います。まるで人間の外観と内面の相違を嘲笑うかのような。

アビゲイルが向かう城の均衡のとれた左右対称な外観。後半に向かうと女王の部屋の非対称な内装が印象的に映り、崩れ去った平穏を表現するとともに固定された位置からのカメラの横への回転でどちらに傾くのかも暗示させる。

その傾きが「家」の中の覇権争いの外観を装いながらも、その実全く目的の違う2人の女の意地の張り合い的な目的の傾きをも表す。引き気味で彼女たちを捉えるカメラが、そんなマジでどーでも良くてアホらしいバトルを見世物的に観覧してるような感覚に観客を落とし込むから、可笑しくて仕方ないわけです。キャラクターの移動に合わせてカットを割らずにカメラを横へと回転させるのも、まるで自分の首を動かして成り行きを見物してるような感覚にさせられるから面白い。

揺らぎの炎とその先にある隠しておきたかった真実。蝋燭の炎により心の揺らぎや地位の揺らぎを表現しつつも、外側から侵食してくる暗闇という魔物に脅かされながらも決して消えない炎としての強さをも表現している。本作は闇に侵食される愛の物語でもあるわけです。人間ってそういう中身なんてどーでも良くて、とにかく外観にこだわる生き物なんだな〜という気分にさせられます。

これは見てよかったなって素直に思える面白い作品でした。そしてやっぱり劇場で見れば良かったな〜。見てるときに用事入っちゃって途中中断しちゃったから、100%は楽しめなかった気がする…(^_^;)
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