MikiMickle

コールド・キラーのMikiMickleのレビュー・感想・評価

コールド・キラー(2017年製作の映画)
3.5
2017年ドイツ・オーストリア合作。
監督はステファン・ルツォヴィツキー(「ヒトラーの贋札」で第80回アカデミー賞外国語賞を取った方です)

連続殺人事件が問題となっている町。
深夜タクシーの女運転手エズゲ。
様々な客。光る怪しげなネオン。
車道に止める車の男を怒りで殴る彼女と、とあるアパートの一室で男に不意に殴られる商売女の姿が、リンクする。

無頼派で一匹狼のエズゲがやっと家に戻ると異臭が…
トイレの換気窓を開けると、そこにはゴミシュレッダーを通した向かいの部屋で惨殺された売 春婦の遺体があった…そして、こちらをみる犯人の姿も……

警察に取り合うものの、薬物所持と公務執行妨害という前科と移民ゆえに、まともにとりあってもらえない。保護もしてもらえない。

親友や家族や元彼に助けを求めるものの、そこは彼女に安堵をくれるものではなかった。
それは彼女の人を拒絶するという性格の本質からか、過去の様々な確執からか……
孤独なエズゲ。凶悪な殺人犯に見張られているという恐怖。誰にも頼れないという状況。

そんな中、夫に三行半を叩きつけられた親友でいとこのラニャは、事の恐ろしさもわからず、エズゲの家へ助けを求めて幼い娘と共に向かう…
が、そこには待ち構えた殺人犯が待っていた…… 殺人犯は、エズゲの運転するタクシーへと…
彼はイスラム教徒ばかりを殺 す連続殺人犯だったのだ…
エズゲは、親友ラニャの残した幼子を守るため、奮闘していく……


前半での、言葉少ないながらも察する状況と感情と人間関係のディテール。前述したのはそのごく一部にすぎない。
30分足らずの中で見せるそれは、丁寧だがシンプルで、無駄なものを全て排除した端的な切なさだった。その中に登場人物たちの愛や嫉妬や鬱憤や弱さや恐怖やらが詰まっており、素晴らしいものだった。
それは後半でもしかり。


エズゲの端正な顔立ちながらも意思の強い表情と疲れをかんじさるくっきりとしたクマも印象的。ほぼ無表情で、無口で、クール。
故に、不意に魅せる笑顔の純粋さが際立ち、彼女が何を1番大事にしているのかわかる。

そして、後半では更に物語や感情や状況に心に変化が生まれていく。ある人々の出会いによって…… 不器用で一直線で不安定な彼女の過去に何が起こっていたのかの判明と、サイコ殺人鬼との直接対立へと…

この映画のキャッチコピーは“その女、凶暴につき”だけど、全然違うっ‼‼ 確かにエズゲは昼間は格闘技(ムエタイ)に明け暮れており、男よりも強い‼アクションもある。 でも、この映画のメインは強さじゃない‼ 紹介文とか裏ジャケとかそればっかりだったけど、そこじゃないんだっ‼と思う。強いけど弱いんだ‼ 恐怖と孤独と守るべきもののために戦ってるんだーー‼
私が勝手に考えるキャッチコピーは、“無類派女の孤高な戦い”か、“研ぎ澄ませ、察しろ‼”か、“行動は言葉より強し”か、“何故、彼女は語らないのか… ”か、“不器用なもので……”だぁ。あ、大して変わらないか(笑)

一見してB級な映画だけれども、移民差別問題を提起しつつ、非常に良い作品でした。連続殺人犯の、異常で鬼畜すぎな手口もこの映画に闇を残します……
MikiMickle

MikiMickle