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顔のない眼のhorahukiのレビュー・感想・評価

顔のない眼(1959年製作の映画)
4.3
パッとタイトルだけ見ると『眼のない顔』って勘違いしちゃいますが、『顔のない眼』です(笑)私も逆やと思ってました(^_^;)

DVDの解説によると、初めて病院や手術をホラーのジャンルに加えた作品らしいです。でも病院題材はもっと前にもあるように思うので、手術+ホラーの金字塔的な作品ということだろうと思います。

あらすじ…
高名な医師の主人公は、交通事故のせいで顔面が壊れた娘のために、秘書と協力して同じ年ごろの女性を誘拐して顔面の皮膚移植を試みていた。でも、なかなかうまくいかず、新たな女性に目をつけるが…という話。

表向きは立派な医師として振舞う主人公が、何の躊躇もなく罪もない女性の顔面を剥ぐ姿が怖い。そして剥ぐシーンも凄くリアル。ペンで印をつけるところから始まり、皮膚を剥ぎ取るまでをしっかり見せます。『サイコ』の風呂場シーンでもそうですが、当時の映画って残虐な場面を直接は映さないイメージだったので、その詳細な描写とリアリティに驚きました。さすがフレンチホラー。しかも、残酷描写にモノクロ映像の美しさが加わることで、どこか上品さすら感じさせるのが独特。

主人公を狂気に走らせるのは間違いなく娘への愛情なんですけど、その偏愛っぷりが度を過ぎているにも関わらず、日常生活や自分が手をかけた被害者への事後処置等も含めて全てが理性的。女性を攫う秘書も含めて、異常者をわかりやすい異常者として描かない。なので異常性を見せつけられてるのに、観客側からすると異常なように映らない。本当に娘の治療のために必要な行為を坦々としてるだけのような印象を与え続けるのがうまい。

そして主人公には、医師として研究者としての功名心が根底にあるようにも思えてくる。その観点で見ると娘は被験者であり、親子であるのに、実験対象でもあるというのがこの映画が纏っている悲しさを助長している。

新しい顔を得ることの喜びが勝っているように思える前半から、罪の意識が強くなる後半。ここら辺も、セリフではなく娘の仕草や行動でその心情を表現しているのも丁寧。そして、「表情のない仮面」を被って屋敷の中を歩く場面が、まるでこの世のものではないような美しさと不気味さを合わせ持つシーンになってるも良いですね。顔を失った者の悲しみは想像もできませんが、幻想的かつ美しさや気高さ、強さそして観客に感動をも与えるラストはすばらしい。傑作でした♫
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