フラワーメイノラカ

十六歳の戦争のフラワーメイノラカのレビュー・感想・評価

十六歳の戦争(1973年製作の映画)
3.8
心中現場のほとりからはじまる物語は、やはり死の予感に満ちていた。
孤児の青年・甚と十六歳の少女・あずな。
兄妹の疑惑を手綱に、プラトニックに惹かれ合う2人。
甚の出生の秘密は、やがて戦争の記憶を紐解くこととなる。

PTSDに苦しむ叔父。
あずなの自殺未遂。
恋人に中絶を迫った甚の過去。

鬱々とした出来事ばかりが語られるが、美しい緑やせせらぎそのままに、生の脈動もたしかに感じられる映像詩。

出資元の豊川市自治体から難を示され、お蔵入りになった本作。
ひょっとすると、『銀河鉄道の夜』が基にあったのではないだろうか。

友人の死に引け目を感じているあずなの母はザネリ。
彼岸が川面に浮かぶ灯篭流しは銀河のお祭り。
川原でみせるあずなの裸体=ミルキーウェイ(乳の川)。

まあ最後だけ強引なんだけど、そう考えないと意味わかんないんだよな…。

『薔薇の葬列』(1969)で取り上げたオイディプスに加え、ここではオルフェウス伝説にまで踏み込んでいる。
神話さながらに境界線があやふやな世界観。

その中で最も生と死の振り幅が大きい、カムパネルラであるあずな。
すでにいなくなった存在が、限りなく近づいて、また離れていく。
半ば約束されていた別れは、永遠に消えない戦争の傷痕のよう。
彼女のフラジャイルな魅力そのままに、切なく神秘的な映画だった。