Inagaquilala

ボブ・ディラン 我が道は変る 1961-1965 フォークの時代のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.8
2015年にイギリスで製作されたこの作品、まさかボブ・ディランのノーベル文学賞を予想していたわけではなかろうが、実にタイムリーな作品であることは確かだ。同じディランのドキュメンタリー作品「ドント・ルック・バック」と立て続けに観たのだが、こちらは主にディランの音楽にフォーカスを絞ったもの。時代も「ドント・ルック・バック」と同じく、ディランがフォークから「脱皮」する直前までを扱ったもので、このふたつの作品を合わせて観ると、ボブ・ディランの原点が明らかになってくる(偶然、劇場も近かったので両作品をハシゴした)。

ボブ・ディランの音楽ドキュメンタリーではあるが、彼の音楽のルーツともいうべきフォークソングの歴史から説き起こし、レッドベリーやピート・シガー、ウディ・ガスリーなどフォークの偉人たちの仕事も紹介しつつ、その延長線上にボブ・ディランの音楽を位置づけている。きわめて音楽史的な方向からディランの音楽にアプローチしているところが、この作品に力強い説得力をもたらしている。とくにディランの師匠ともいうべき病床のウディ・ガスリーとのエピソードは印象に残った。

音楽面へのアプローチはもちろんなのだが、ミネソタの田舎からニューヨークのグリニッジビレッジにやってきた野心満々のディランの若き日の肖像も見事に描き切っている。ウディ・ガスリーに会うためにニューヨークにやってきたディランが、どのようにしてギターを抱えて人々の前で歌うようになったのか、そして瞬く間にレコーディングの機会に恵まれ、そしてメッセージ・フォークの旗手と奉られていったのかが、実際に彼と交流のあった関係者やミュージシャンたちの証言で明らかにされていく。そういう意味で言えば、実に記録性も高い、良質な内容となっている。

ちなみにこの作品を監督したのは、「ブライアン・ウィルソン ソングライター」の2部作を手がけたトム・オーディル。孤高の音楽クリエイター、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンを取り上げたこの作品、自分は未見なのだが、かなり評価も高く、「ボブ・ディラン/我が道は変る」を観た印象と合わせても、こちらの作品にも大いに心が向かっている。
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