keith中村

8年越しの花嫁 奇跡の実話のkeith中村のレビュー・感想・評価

8年越しの花嫁 奇跡の実話(2017年製作の映画)
5.0
2018年8月11日のFacebook投稿から転記。
今から、さっき観てきた「春に散る」のレビューを書くために。

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「8年越しの花嫁 奇跡の実話」DVDにて遅ればせ鑑賞。
 いやあ、舐めてたわ~。見事だわ~。
 難病ものラブストーリーなんていうジャンルは自発的には絶対に観ないものだけど、「映画としての出来」が高評価だったので、気になってDVD鑑賞。
 いや、実に上品で素晴らしい演出の作品でした。
 
 テレビ局主導のこんな企画持ち込まれたら脚本家も監督も、ふつうはベッタベタな方向で「客が泣けりゃいいんでしょ」みたいな不誠実な作り方になりそうなものなんだけれど、この映画は違う。
 もう、映画としての格がそんなものとは全然違う。
 
 何が見事って、まずは、全部画で語る。
 安易な説明台詞はひとつもない。
 強いて言えば、薬師丸ひろ子の「アパートからここまで2時間だっけ?」が唯一と言っていい説明台詞なんだけど、あれはその前に佐藤健がアパートから延々バイクに乗って病院までやってくるシーンがあるおかげで、「えーっ。遠い距離だとは思っていたけどまさか、に、に、二時間!」と驚きを増幅させるものなので、単なる説明台詞に堕してはいない。
 
 それから、リアリティのないオシャレなだけの画は一切使ってない。
 もちろん、映像は美しいんだけれど、それはあくまで日常を美しく撮っているということ。
 だって主人公二人がいつもデートの待ち合わせに使うのが、スーパー「ハローズ」の駐車場だよ! そんなラブストーリーあるかい!? この映画、全然安易な方向に逃げてない。
 
 安易といえばクローズアップもほとんど使わない。
 序盤の使い捨て懐炉なんて、普通アップにしたくなるよね。それどころか、プロポーズのシーンの婚約指輪ですら全然カメラが寄らないからね。
 カメラがストイックにずっと引きの絵中心なので、終盤にクローズアップされる「携帯電話のダイヤル」がすごく活きる。
 いや~、上品だなあ。
 
 唯一気になったのは、佐藤健くんがトヨタのAE86を持っているのに、病院へはバイクで通うところ。豪雨の日でもバイクで行っちゃう。そうそう、片道2時間ね。
 まあ、でもそんな「映画的演出」は全然許そうじゃないか。
 AE86なんて古い自動車も、主人公が修理工で、「直せばなんでも直るんだよ」という彼の主義にふさわしいからリアリティと説得力があるしね。
 
 あと関係ないけど同じくトヨタの2000GTが出てきたのもよかった。100台くらいしか現存してないでしょ、あれ。
 多分「出したいだけ」なんだろうけど、持ち主の古舘寛治を「社長」と呼んでるだけで、「あ、金持ちの道楽ね」と腑に落ちる。そういう細かいところも見事。
 
 ほかにも良いところはたくさんあって、音楽を安易に垂れ流さないところも好感が持てるし、強引に泣かすようなこともしない。むしろ冷静に淡々と物語を描いていく。
 セリフもいろいろ素晴らしかったけど、いちばん「すげえ!」と感心したのは、結婚式場の担当役の中村ゆりの「私……、なんとかしちゃいます」。こんな言い回し、なかなか書けないわ~。
 
 あと、役者さんも、ほんとに全員素晴らしい。
 太鳳ちゃんなんか、昏睡中は特殊メイクで、「うわ、この人の顔、こんなこと思っちゃいけないけど、正直言って不気味だわ」と感じるほど。どす黒くて、なんか垢みたいのが溜まってるし。この手の映画としては相当本気の演出だ。
 佐藤健くんも、ほんとに「その辺にいる修理工のお兄さん」にしか見えない。
 杉本・薬師丸夫婦も整備工場社長の北村一輝もよかった。
 というわけで意外とお薦め、瀬々監督のベストワークだと思います!
 もっとも(実話とはいえ)ストーリーは単なる恋愛映画なので、そこはご注意を。
 
 関係ないけど、太鳳ちゃんの病気「抗NMDA受容体抗体脳炎」は、昔は西洋では悪魔憑きとされていたもので、「エクソシスト」のリンダ・ブレアも実はこれなんですね。