ミーミミ

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のミーミミのレビュー・感想・評価

3.9
人は、芸術のどこに感動するのだろう

その芸術が「バレエ」だったなら、、、

類い稀なる表現力?

軸がぶれない体幹の強さ?

生まれもった柔軟性?

回転の数やスピード?

重力を忘れたかのような跳躍力?

スター性やカリスマ性?、、、


しかし、いくら感情ゆたかで、高い技術に裏打ちされたダンサーであっても

人の心を揺さぶったり、魂を震わせたり、ましてや涙させる事はできない、

と私は思う

では、なにが観客を感動の高みへといざなうのか、、、



「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン」

ヌレエフの再来と絶賛された天才ダンサー

子どもの頃から、素晴らしい才能に恵まれていた彼

有名なバレエ学校で学ばせたいと、父と祖母は出稼ぎに、母も彼中心の生活に。

家族と再び一緒に暮らすには、世界に認められるダンサーにならなければと、ひたすら過酷なレッスンに励む彼だったが

ある日、家族の崩壊を境に、目標を失い、踊ることへの意義さえ見えなくなっていく

刺青、クスリに溺れる日々も赤裸々に記録として映していくこの映画


この辺りまでは、私としては少しモヤモヤ
もちろんバレエは素晴らしいのだけれど、何か釈然としない部分があり、
あまり彼に感情移入できなかった


ただ、そんなセルゲイが


自分の内にばかり向けていた目を
初めて、外に向けたとき


導いてくれた
自分を形づくる人たちの存在に
やっと気付いた瞬間


その精神の成熟とともに
彼のダンスが大きく変わったような気がした


この頃、ようやく

今まで家族が観客席に来る事を拒んでいたセルゲイが
初めて父・母・祖母をステージに招いた


彼に抱きしめられたお祖母ちゃんが、いった「言葉」


それを聞いて、私はドワッと涙があふれ、心の中で
「違うよ~お祖母ちゃん。こっちこそなんだよ」と叫んでしまった


きっとセルゲイも同じ気持ちだったはず



自分の運命をきちんと抱きしめ
周りの人達もきちんと抱きしめる事ができた時

すべてを昇華したその先で

はじめて、セルゲイのバレエは
芸術としての精神の成熟を手に入れたのだった
ミーミミ

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