人は、芸術のどこに感動するのだろう
その芸術が「バレエ」だったなら、、、
類い稀なる表現力?
軸がぶれない体幹の強さ?
生まれもった柔軟性?
回転の数やスピード?
重力を忘れたかのような跳躍力?
スター性やカリスマ性?、、、
しかし、いくら感情ゆたかで、高い技術に裏打ちされたダンサーであっても
人の心を揺さぶったり、魂を震わせたり、ましてや涙させる事はできない、
と私は思う
では、なにが観客を感動の高みへといざなうのか、、、
「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン」
ヌレエフの再来と絶賛された天才ダンサー
子どもの頃から、素晴らしい才能に恵まれていた彼
有名なバレエ学校で学ばせたいと、父と祖母は出稼ぎに、母も彼中心の生活に。
家族と再び一緒に暮らすには、世界に認められるダンサーにならなければと、ひたすら過酷なレッスンに励む彼だったが
ある日、家族の崩壊を境に、目標を失い、踊ることへの意義さえ見えなくなっていく
刺青、クスリに溺れる日々も赤裸々に記録として映していくこの映画
この辺りまでは、私としては少しモヤモヤ
もちろんバレエは素晴らしいのだけれど、何か釈然としない部分があり、
あまり彼に感情移入できなかった
ただ、そんなセルゲイが
自分の内にばかり向けていた目を
初めて、外に向けたとき
導いてくれた
自分を形づくる人たちの存在に
やっと気付いた瞬間
その精神の成熟とともに
彼のダンスが大きく変わったような気がした
この頃、ようやく
今まで家族が観客席に来る事を拒んでいたセルゲイが
初めて父・母・祖母をステージに招いた
彼に抱きしめられたお祖母ちゃんが、いった「言葉」
それを聞いて、私はドワッと涙があふれ、心の中で
「違うよ~お祖母ちゃん。こっちこそなんだよ」と叫んでしまった
きっとセルゲイも同じ気持ちだったはず
自分の運命をきちんと抱きしめ
周りの人達もきちんと抱きしめる事ができた時
すべてを昇華したその先で
はじめて、セルゲイのバレエは
芸術としての精神の成熟を手に入れたのだった