TOSHI

ムーンライトのTOSHIのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
-
「ラ・ラ・ランド」を観たなら、本作も観ない訳にはいかないだろう。観てみるとアカデミー作品賞というイメージからは、かけ離れた作品だった(もっとも近年の受賞作は、一昔前から変質してきているが)。
黒人ばかりが出演する作品や、白人による黒人の差別を扱った作品は多いが、黒人ばかりが出演する、黒人同士の差別を扱った作品は初めてではないか。何となく黒人同士は皆、連帯意識で結ばれていると思い込んでいた。しかも差別の要因が、同性愛とは衝撃的だ。
三部構成により、マイアミの貧困地域で、ドラッグを常習する母親ポーラと暮らす少年シャロンの幼少期、青年期、成人期が描かれる。
幼少期、学校ではチビと呼ばれ、母親から育児放棄されていたシャロンを、麻薬ディーラーのフアンとその妻が面倒を見る。しかしフアンが母親にドラッグを売り、間接的にシャロン一家を崩壊させていた矛盾が分かり、シャロンはフアンの元を去る。
青年期、高校生になったシャロンは、フアンの死後も妻の世話になっていた。相変わらず学校ではいじめられ、母親は金をせびりに来る。彼には唯一の友人・ケヴィンだけが心の支えであり、月夜の浜辺で同性のケヴィンとキスをして慰め合う関係になるが、いつもシャロンをゲイだと差別しているレゲエヘアの同級生達の不良グループに強要され、ケヴィンは皆の前でシャロンを殴る。翌日、シャロンは椅子でレゲエヘアを殴打し、警察に連行、逮捕される。
時代ごとの飛躍ぶりに驚くが、特に服役を終えてドラッグの売人として伸し上がった、成人期のマッチョな風貌には、最初シャロン役と分からなかった程だ。大型車を乗り回し売人を使い、フアンと同じような人生になった事になる。風貌は大きく変わっても、目は変わっておらず、少年の孤独な魂が凍りついたまま大人の時を迎えた事が表現されており、時代ごとの三人の役者で見事に一人の人物を作り上げている(三人は、撮影中会う事を禁じられていたとの事)。
シャロンは麻薬更生施設に入っていた母親から謝罪を受け、初めて和解する。そして今はレストランを経営しているケヴィンから逮捕後初めて連絡があり、シャロンは胸の高まりと共に店を訪れる。ここでの二人の掛け合い、そしてケヴィンの家で愛を告白するシーンに唸る。
15年に渡る物語の最後に、シャロンは大切な二人と和解し自分を取り戻す訳だが、幼少期にフアンがシャロンに海で泳ぎを教えるシーンでの、「自分の人生は自分で決めろ。他人に決して決めさせるな」というセリフにあるように、本作のテーマはどんな人生になっても自分らしくある事、心のままに生きる事だと言えるだろう。それを象徴するラストシーンが素晴らしく、余韻が残る。観終わって、「ムーンライト」というタイトルの意味が胸に迫って来た。性的マイノリティという暗闇の中の存在にも、夜を照らす月のように必ず光はある。月の光のように、輝く事ができる存在なのだという意味に思えた。
シャロンの置かれた環境の悲惨さに反して、色使い(幼少時代は水色、青年時代は黄色、成人時代は黒色、海と月と夜の意味か)や、映像の美しさがとても印象的で、本作までは無名だったバリー・ジェンキンス監督の、セリフや派手な仕掛けに頼らない演出力に感嘆した。

近年の映画賞は作品のクオリティ以上に、社会的弱者やマイノリティをテーマとした、「この作品が受賞する事に意味がある」的な作品が受賞する傾向が強まっていると感じるが、本作のアカデミー作品賞受賞には、前年度の受賞者が白人ばかりという批判の反動もあったかも知れない(審査員には、有色人種が増員された)。しかしそんな状況とは関係なく、本作は受賞にふさわしい素晴らしい作品だと思う。
TOSHI

TOSHI