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バンコクナイツのkouのレビュー・感想・評価

バンコクナイツ(2016年製作の映画)
4.0
《ユートピアが何故あるのか》
また新しい作家性を持った映画監督の作品を見た。「サウダーヂ」が話題になった時に見れていない自分にとって富田克也監督作品は初だったのだが、とても独特な作り方、そして今作自身の持つ壮大な内容に驚いた。

まず観ていて1つ思ったのは人物のアップのショットがとても少ない。どこかの空間をある程度の距離で、多数の人々が同時に映るようにしてシーンが続いていく。そのため、群像劇という色合いが濃い気がした。また、約三時間の今作はストーリーも変わっている。今作の主人公はバンコクのタニヤ通りで働く娼婦、ラックが主人公だ。彼女が何故娼婦としてバンコクで働いているのか、ロードムービーのように物語は進んでいくにつれわかっていき、それはベトナムの歴史までも及ぶのだ。

今作は「娼婦、楽園、植民地」という3本柱から成っているという。物語の冒頭は娼婦と楽園の要素が強い。ドロップアウトした日本人達が娼婦たちを使って金儲けをしている。娼婦たちも彼らを出し抜いて稼ごうとしている。そこには欲望とドラッグがあり、日本では出来ない部分にドロップアウトした日本人達は楽園を観ている。

しかし、あることがきっかけで元自衛隊員のオザワがラックの故郷へいくことになる。そこで日本では失われた田舎の景色を見ることでオザワはユートピアを見るのだが、決して良いところばかりではない。そこには貧困があり、だからこそラックはバンコクに出稼ぎに出るのだ。植民地としての、過去の傷を見ることになる。オザワは戦争で無くなった人の幽霊や、ジャングルを走るベトコンの姿を見る。歓楽街の裏には紛れもない歴史の傷がある。そしてラオスへいくとその傷はより一層際立って来るのだ。とても壮大な歴史を感じる。

ロードムービーとしてのテイストがあることから、自分もそのタイやノンカーイ、ラオスの空気を感じる。どこか知らない所へ連れて行かれるような感覚は不思議だった。とても上映時間が長いがあまりそれを感じさせないのはとても不思議。画面がテンポよく変わっていくし、次に何が起こるのか惹きつけられる。とても力強さを感じる一作で、整理がまだ追いついていない部分もある。何度も見直したい一作だった。
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