垂直落下式サミング

キュア ~禁断の隔離病棟~の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.9
ヤリ手の金融マンのデイン・デハーンが、会社の命令で山奥にある療養所から帰ってこない社長を迎えにいくはめになるのだけど、今度は自分もこの隔離病棟にとらわれてしまう。
現代人が抱える上昇志向という病。じゃあ、そのストレスの原因から切り離して、俗世から隔絶された場所で過ごせば人は健全になるかと言えば、そう単純でもないわけで、他所には他所なりの搾取構造があって、結局はどこに行っても逃れられないってなわけで。
ウナギ風呂や抜歯拷問など、シュールなシーンが目を引く作品だ。特に変だったのは、看護師さんの乳房が異常なまでに垂れているのが、後に明かされる真相の伏線になっていること。映るのはほんの一瞬だが、単なる残念おっぱいだと思ってみてはいけない。若くみえるのに老婆のような垂れ乳なのが重要なのだ。
主人公の意識が混濁し、現実が曖昧になっていく過程がよく積み上げられており、主人公は幻覚や幻聴に悩まされるうちに、だんだん自分が正気か確信が持てなくなっていって、自信に満ちていた表情が、徐々に病的な不安顔になっていく。彼の風貌が変容していく芝居がお見事で、本作をニューロティックホラーとして飲み込みやすいものにしていた。
彼がなんとか逃げ出そうと行動を起こす際には、魔物と戦うものは自分もまた魔物の心を持たなければならないということか、最初の不適さを取り戻し、最後の最後にはグリーンゴブリンのときの顔になって反逆する。これがもうたまらない。なかなかヒット作に恵まれないが、デイン・デハーンくんはやっぱり歪んだイケメンの役がハマるな。
映画冒頭の情景。スイスの森と城。山岳鉄道の車窓。美しい映像だ。自然では感動しない私が珍しく心を動かされた。ここで評価が好意的な方向に傾いているフシはあるが、お話としても良質なホラーサスペンスだったと思う。
それにしても、そこらにあんなうじゃうじゃウナギがいるなら、年がら年中土用の丑の日にしたい!