亘

サンガイレ、17才の夏。の亘のレビュー・感想・評価

サンガイレ、17才の夏。(2015年製作の映画)
4.0
【翼をくれた人】
サンガイレは曲芸飛行に惹かれつつも、高いところが苦手で自己肯定感の低い少女だった。ある日別荘のある湖畔の町でデザイナー志望の明るい少女アウステに会う。何度か会ううちに2人は惹かれ合う。

リトアニアの田舎町を舞台に少女同士の恋の始まりを描いた作品。少し内気な主人公と明るく社交的な少女の出会いという点では『アデル・ブルーは熱い色』に似ている。でも『アデル~』ほど様々な背景が描かれているわけではなく、よりイメージ重視で素朴でミニマルな感じがする。特にリトアニアの田舎町の素朴な雰囲気や爽やかな空気が、本作の瑞々しさにマッチしていた。

サンガイレは首都ビリニュスに暮らす少女。大学卒業まであと1年ではあるけれども卒業後に何をしたいか分からない。夏休みに家族と共に湖畔の別荘にやってきて、飛行場で曲芸飛行を眺めていた。そんなときイベント会場でバイトをしていたアウステに声をかけられる。彼女は夏休み中発電所で働きながらデザイナーを目指しているのだった。

そこからサンガイレにとって運命の夏が始まる。言ってみればサンガイレは陰キャでありなかなか友達とはしゃぐということもしなかった。けれどもアウステから誘われて、アウステのバイト仲間たちとキャンプをしたり湖へ行ったり遊び始め、そのうちの1人の青年とセックスもする。とはいえサンガイレ自身慣れていないのかなかなかまだ浮いているように見える。

サンガイレとアウステが2人で会うようになってから、よりサンガイレは明るくなる。アウステがサンガイレの採寸をドレスを仕立てる。サンガイレ自身は自分の体にあまり自信を持っていないようだし、腕のリストカットの痕を隠す。けれどもアウステはそんなサンガイレも受け入れるし、サンガイレをモデルに写真撮影もする。

後半に入るとサンガイレの内に秘めた思いも見えてくる。サンガイレがリストカットを始めたのは、母親に「名前に値しない」と罵倒されたとき。彼女は湖畔に大きな別荘を持つような裕福な家庭で育ったが、母親のせいでなかなか自信を持てていなかったのだ。そんな彼女を見てアウステは曲芸飛行の体験を勧めるが高いところへの恐怖からサンガイレは諦めアウステに苛立ってしまう。しかもアウステに裏切られたようなショックからその夜には自殺未遂までしてしまう。

しかしそこから彼女は自分の心の中にある願望・恐怖に正面から向き合い始める。中でも元バレリーナのサンガイレの母が「ステージで踊るのは素晴らしいことだ」と過去を思い出しつつ泣きながら言ったのはサンガイレの心に響いたかもしれない。母はサンガイレを罵倒して自己肯定感を低めた張本人だけれども、この言葉が示すのは自分の好きなことを思いっきりすることの喜びなのだろう。そして再びアウステと会いビルの屋上や発電所の鉄塔など恐怖を克服する訓練を始める。その後の「あなたでいてくれてありがとう」というサンガイレの言葉も印象的。

ラストシーンは2年後の飛行場。2人とも順調に夢に向かって進んでいるのがうれしいけれど何よりサンガイレの表情が明るく、曲芸飛行で終わるラストはさわやかだった。

なぜサンガイレは高いところが苦手なのに曲芸飛行に惹かれたのか。それはきっと自己肯定感が低いからこそ広い空を自由に飛びたかったのだろう。それでも彼女はずっと自信がなかったから高い空へ挑戦することもできなかった。それを変えてくれたのがアウステなのだ。まさにサンガイレにとってアウステは自信をくれて翼を授けてくれた人なのだ。

印象に残ったシーン:夜の草むらに2人で行くシーン。サンガイレとアウステが2年後に会うシーン。
亘