むっしゅたいやき

蜂の旅人のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

蜂の旅人(1986年製作の映画)
3.8
巣箱のひと。
テオドロス・アンゲロプロス。
原題は『Ο Μελισσοκομοσ(養蜂家)』。
アンゲロプロスの作品では、しばしば概念上の“家”がテーマとなる。
本作もその文脈の一端を担う作品であり、自らの“家”を失い、新たな女王蜂を迎え入れる事も出来ない男と、彼に養われつつも、女王蜂を中心に強固な“家”を構成する蜜蜂達を対比し、描いた作品である。

本作はロードムービーの形式を採用しておりテンポが良く、またアンゲロプロス特有のシュールレアリスティックな止め画は見られない。
この為、画から主人公たるスピロの心象を汲むと云うよりは、起伏する出来事を追ってゆく作品となっている。
この点が監督の他作とは異なり、評価の定まらない所以であろうか。
但し画面構成の秀麗さやマストロヤンニの好演も有り、個人的に評価自体は決して悪くは無い。
船上での一幕の後、呆然と立ち尽くすスピロは、マストロヤンニ以外では考えられぬ程の演技ですらある。

円盤に収録されている監督へのインタビューでは、『メランコリックと云う言葉には、過去と未来がある。だから私の作品のダンスやパーティーは、メランコリックなのだ。』との言が録音されている。
「悲しそう」と云う言葉と比較の言であるが、恐らく「メランコリック」には単に登場人物の個人的背景のみではなく、ギリシャの辿って来た悲劇の歴史、そこから続く未来を込めている、と云う意図であろう。
本作にも彼の作品に通底するメランコリー、即ちギリシャに生きる人々への愛惜が見て取れる。
けだし、アンゲロプロスらしい作品ではあろう。
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