櫻イミト

叛乱の櫻イミトのレビュー・感想・評価

叛乱(1954年製作の映画)
4.0
日本近現代史上最大のクーデター未遂「ニ.二六事件」の初めての映画化作品。原作は同名の直木賞受賞ノンフィクション小説(1952)。

1936(昭和11)年2月26日、“昭和維新”を目指す陸軍青年将校22人が、兵士約1500人を率いて首相官邸などを襲撃、9名を殺害し多くの負傷者を出した。事件の全貌から犯人たちの処刑までを克明に再現する。。。

面白みのない作りがノンフィクション映画として有効だった。前半に多用されるシンメトリーの構図が天皇至上主義にかける青年将校たちの硬直性にマッチしていた。スター俳優を使わず英雄の存在や共感をも排している。キーマンのひとり栗原中尉(小笠原弘)の魅力のなさは演技を超えているように感じた(実際にそのような人物だったらしい)。北一輝の食えない感じが本作のスパイスになっていた。

終盤、首謀者17名一人一人の処刑を辞世の句と共に10分ほどかけて映し出す。全員「天皇陛下万歳!」と叫んで銃殺されていく。異様なインパクトを残す演出だが受け止め方が難しい。直感としては”天皇”への宗教的感情と殉教のように見えた。

本作の演出がどれほどの意図の上で為されているのかが見えにくい。戦後9年目の映画であり、戦争経験者であるスタッフキャストの精神が無意識に表出しているようにも思える。時代が生んだカルト作と言える。

この事件の後の映画化では、忠臣蔵のような感傷的な描き方をしていて違和感があった。本作では武装テロとしてのスタンスで全貌が描かれている。若松孝二監督の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2008)「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(2012)につながるものがある。同様のラインでオウム真理教事件の映画化を望みたい。

※監督クレジットは佐分利信だが、クランクイン直後に病に倒れたため、大半は阿部豊や松林宗恵が監督にあたった。
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