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天国はまだ遠いのwigglingのレビュー・感想・評価

天国はまだ遠い(2015年製作の映画)
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特集上映ハッピー・ハマグチ・アワーにて。
『ハッピーアワー』のクラウドファンディングへの参加者特典として企画された作品。現時点での最新作ということになりますね。

これが実に不思議な作品で、観るものを大いに戸惑わせる。カメラの前で演じるということに常に真摯に向き合う濱口監督ならではの怪作でした。

高校生のときにある事件の犠牲になり死んでしまった少女と、その霊に取り憑かれ17年間一緒に暮らしてきた男のもとに、少女の妹から連絡がくる。死んだ姉についてのドキュメンタリー映画を撮っていてインタビューさせて欲しいと。

このなんとも奇妙で魅力的な物語が、これまでの濱口作品で用いられたモチーフを総動員して構築される。まさに『ハッピーアワー』の変奏曲のような作品。

インタビューで男は彼女の死んだ姉の霊に取り憑かれていること、ずっと一緒に暮らしていること、今もすぐ側で我々を見ていることを告げる。姉の姿が見えない妹には到底信じられるわけはなく。そこで男に姉に憑依されてもらい直接対話を試みるのだが...

このシーンで展開されることがなかなかに奇抜で、観るものは虚空に取り残されたような感覚を覚える。
そしてこれらはすべてカメラの前で展開されており、演じるものとそれを観るもの、つまり映画とそれを観るものの関係性を想起させる。
もしかして濱口監督は映画とは何なのかを映画で描こうとしているのか。

インタビュー後の男と少女(霊)の雨の中での会話も印象的。雨は見えるし音も聞こえる、でも濡れないし匂いもしない、と。目の前にいて見えているのに手が届かない、生者と死者の距離のことだろう。

初台の読書カフェfuzkueが舞台だったり、男と少女が一緒に「みちくさ日記」を読んでたりと、オッと思う点が多々あり。
小川あんのクリクリとした目が実に愛らしく、彼女に出会えたことも大きな収穫。こんな幽霊ならいつでもウェルカムですよ。
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