滝和也

ランジュ氏の犯罪の滝和也のレビュー・感想・評価

ランジュ氏の犯罪(1936年製作の映画)
3.7
ルノワールの描く
ノワール的な
エッセンスを交えた
パリのアパートに住む
市民たちを生き生きと
描き出す人情小噺…。

「ランジュ氏の犯罪」

国境の町に1台の車が止まり、一組のカップルが宿を求める。だがその顔を見た宿屋の息子は、男が警官が先程話した殺人犯だと言い出す。宿屋の酒場で客が騒ぎ出すと女が確かに殺人犯だが、事情を聞いて欲しいと語りだす…。

何故その男、ランジュ氏が殺人犯になってしまったかを回想形式で語るジャン・ルノワールのコメディともノワールとも語れない作品。フィルムノワールBOXに入っていたため、てっきりサスペンスと思い見たんですが…これは長屋モノ、人情小噺でした。

回想から始まるのはパリ市内に立つ、小さな出版社と洗濯屋も入っているアパートに住むパリの小市民を描き出す展開。

空想好きで変人のランジュ氏はそこに住み、出版社に勤めながら、アリゾナジムと言う西部劇小説を書いている。そこに絡むのが大家さん、その息子の怪我をした軽業師、洗濯屋の女将と女たち。そして出版社の面々と…、問題なのは出版社社長。

この社長、口八丁手八丁で出資者は騙して金を使い込む、社員に給料は払わない、とにかく女に手が早い、しかも避妊しないとまぁ、落語の悪い与太郎…。この方をキーにして前半は進みます。

でも中盤でそいつがいきなり逃げた上、列車事故で…と言う、あれ?どうなっちゃうのと、誰が殺されるの?となる訳です。ただ…ここで潰れかけた出版社は出資者が良い方でアリゾナ・ジムが当って皆が幸せのはず…にはならないんですね。下がる上がる落とすと言う起伏がかなりキツくてオチがイキナリ来ます。

このクライマックスにくる殺害シーンがワンカット長回しでアパートから外へクレーンを使用した流麗なカメラワークでここは見どころでしょう(^^) 演者を追いカメラがながれるように動く感じです。

起伏に飛んだストーリーですが、ルノワールは人に対して悲観せず、救いのような優しさに溢れたラストを用意してくれます。ここも良いんですよ、後味が(^^)

各キャラクターが極端に描かれ、明るく個性があり、彼らが少しづつ絡んだ人情喜劇が展開する訳ですが、そこに与太郎社長が絡んでノワール的なエッセンスが入り、人間臭い悲劇を見せてくれます。

それは大家さん、長屋の住人の熊さん、はっつぁん、その女房、そして与太郎と言う長屋に住む方々が出てきて騒動となると言う長屋モノ、人情を絡めた小噺と似た落語的な風情に面白さを感じた作品です。お暇ならかなぁ…(^^)

※追記
独白する洗濯屋の女将がヒロインなのですが、人生を知った大人の明るい女性で私は好きでした(^^)
滝和也

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