よつ

なぜ君は絶望と闘えたのかのよつのレビュー・感想・評価

なぜ君は絶望と闘えたのか(2010年製作の映画)
4.5
光市母子殺害事件は、1999年当時18歳だった少年により本村弥生さん(当時23歳)が殺害・屍姦され、生後11か月の娘も絞殺された壮絶な事件である。

WOWOWが制作したこのドラマは、週刊新潮の記者・門田隆将氏の同名著書を下敷きにした作品で、妻子を殺害された本村洋さん(作中では町田さん)の闘いが描かれる。
その闘う相手は、反省の態度を見せない加害者であり、詭弁を弄して死刑を回避しようとする弁護士であり、判例とマニュアル重視で被害者感情に目を向けようとしない司法制度でもある。
「事実を基にしたフィクション」とはいえ、時系列に沿って丁寧に出来事がなぞられ、ドキュメンタリー風に仕上がっている。
原作の門田隆将氏は「Twitterでよく見る右寄りの論客」くらいの認識でしかなかったが、取材に懸ける熱意と執念に素直に感服した。門田氏を演じるのが江口洋介というのはちょっと美化しすぎと思うが。

第一審で死刑ではなく無期懲役の判決が下された際、いつもは温厚で理知的な本村さんが「司法に絶望した。一刻も早く犯人を世に出してほしい。私が殺します。」と記者会見で喋るシーンが衝撃的だった。テレビ生放送での殺害予告は、後にも先にもこの瞬間だけではないだろうか。
彼は「語り口が理屈っぽくて感情が伝わってこない」と指摘されることもあったようだが、自らの主張をしっかりと伝えるためにあえて感情を排していたのだろう。だからこそ本村さんの感情が剥き出しになる場面の迫力が際立つ。

被害者遺族の本村さんの人間離れした精神力にただただ敬服するのみだが、彼も最初からそのメンタルを持ち合わせていたわけではない。10年以上にも渡る裁判を通して培われた賜物である。
そのことを門田氏が伝えたときの
「成長ですか…そう言っていただけるのは嬉しいですけど、僕はそんな成長より、家族がいて、一緒にご飯を食べて、一緒に笑ったり泣いたり、何にも特別なことが起こらない平凡な日々を過ごしていたかった」という言葉に泣いた。
まるで本村さん本人だと思わせる眞島秀和さんの演技、素晴らしかった。
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