真鍋新一

怒苦呂の真鍋新一のレビュー・感想・評価

怒苦呂(1927年製作の映画)
3.3
若い市川右太衛門の姿が拝める数少ないフィルム、であると同時に若い高堂国典が拝める作品でもある。『ゴジラ』の大戸島の長老とか、『七人の侍』の「やるべし!」の長老とか。

予備知識なしで観ると、病弱な剣の達人である主人公がどうしていきなり幕府を敵に回して出陣するのか意味不明なのだが、これはキリシタンが弾圧される作品だかららしい。だからといって特にキリスト教系のモチーフが出てくると言うことはない。

むしろ、主人公の留守中に町のうわさに狂わされた婚約者が放火魔になるというくだりがすごい。そこから映画もただのチャンバラとは違う重苦しいテーマを背負っていることがだんだんとわかってくる。

肺病が進行しているのに1人を寄ってたかって取り囲んで殺そうとする権力。神も仏もない。やけに達観し切ったラストの無常感。実際、人間最後はこんな感じなのかもしれない。ダメなものはダメ。
真鍋新一

真鍋新一