MikiMickle

マジカル・ガールのMikiMickleのレビュー・感想・評価

マジカル・ガール(2014年製作の映画)
4.0
監督 カルロス・ベルムト。初長編作品。
サン・セバスティアン国際映画祭で作品賞と監督賞受賞。スペイン版アカデミー賞であるゴヤ賞では7部門ノミネートで主演女優賞受賞。

白血病のアリシア 12歳。余命わずか…彼女の願いは、大好きなアニメ「魔法少女ユキコ」のコスチュームを着る事。ノートに書き込まれたその願いを盗み見た父ルイスは、なんとかしてその夢を叶えてあげたいと願う。3つ目の願い…13歳になる事は、多分叶わないから……
しかし、その衣装は特注品で、失業中のルイスが買えるような代物ではなかった…
金策するもうまくいかず、意を決したルイスは、宝石店への強盗を決意する。が、窓ガラスを割ろうとした瞬間に空から降ってきたのは、吐瀉物…
それは上階に住むバルバラの吐いたものだった。バルバラは、美しき人妻…精神科医の夫と共に暮らす彼女は、心に闇を抱えていて…

一方、出所したばかりの元教師のダミアンは、なぜか元教え子のバルバラと再会する事を恐れている…

そんな彼らの運命が、小さな夢をきっかけに混じりあり、事態は予想もしない展開となっていく…

あまりの展開に、これ以上ストーリーは言えない‼
出発点と、その後の流れが違いすぎる‼‼
一見して、感動ものだと思うでしょう。が、その少女の秘密の小さな願いが、負のスパイラルの如く、人々を飲み込んでいく… それは、時に自分のために、時に愛する人のために…… そこには様々な欲望が入り交じり…

見ていて、うわぁ~~‼‼となった…

まず、この映画で感じるのは、日本愛。
魔法少女ユキコのテーマ曲は長山洋子のデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」で、昭和の魔法少女ものの香りがする。検索エンジンが「RAMPO!」であるとか、お酒が「Sailor moon」とか、随所にそれを感じる。
魔法少女という面においても、『魔法少女まどか☆マギカ』(私は見たいと思いつつも触り部分しか観れてない…)の、“夢が叶うと罰になる”というそのものであるし、今敏の『perfect blue』も感じさせる。
また、エンディングが美輪明宏の歌う「黒蜥蜴」という事も、監督が単なる日本好きでなく、深くインスピレーションをうけたという事がわかる。
もうひとつの印象深いスペインの曲「炎の少女」の歌詞も、ストーリーと見事にマッチングしていた。

そして、この映画の一番面白い所は、“見せない”という事。過去になにがあったのか、“蜥蜴の部屋”でなにがあったのか、例えばそういった事が全く説明されない。なのだけれど、些細なヒントが些細にちりばめられ、想像力を執拗に掻き立てられる。
“見せない”が、もったいぶっているのではなく、この映画の魅力であり、それが必然的である。

「世界」「悪魔」「肉」の3部構成で、それぞれの登場人物の立場になってストーリーは進んでく。が、感情移入しながらも、それを打ち砕く闇。それは、おぞましくも、人の本性でもあり、それを突きつけられる… 「世界」「悪魔」「肉」という3つの意味も意味深い…
バルバラの額から流れる一筋の血。その傷はインドのビンディーのようで、その血は闇の裂け目のようだ。過去へと繋がる闇の扉… そして、黒蜥蜴…
ジグゾーパズルは、ある人を再構築する象徴であり、完成しないそれは、精神と制御心の崩壊であり、またその欠片があった場所を思うと、鳥肌がたつ。そこから全てが始まっていたのだ。そして、人生のパズルは完璧ではないと…

冒頭で、ダミアンが「2+2=4」は揺るぎない事実であると教えるが、その真っ当な真理は現実の人間世界では見事に打ち砕かれる。いや、これは2対の関係が揺るがないという意味なのかもしれない。これが真実であると。
この対の表現方法も見事。

また、全体を通して感じる“不安感”や“謎”や“違和感”。細かなその演出。例えば、冒頭でのダミアンの前で消えた手の中のメモや、バルバラと夫の主従的な関係性から始まり、前述した“見せない”部分含め、それらが、やけに小気味良く、絶妙に好奇心を刺激し、目が離せなくなる。
これは、まさしくスペイン産フィルム・ノワールである。退廃的であり、ミステリアスであり、ファム・ファタールの物語である…… 二人の魔法少女の。

歪んだ愛なのか、イノセントの愛なのか、それは観た人がそれぞれ感じるものでしょう。私はどちらでもあると思います。その二つは、時にイコールになる事もあると。

すごい映画だった。
MikiMickle

MikiMickle