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わたしの坊やのinuatsuのネタバレレビュー・内容・結末

わたしの坊や(2015年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

母親と過ごした幼い日々の記憶を手繰り寄せる少年。しかし、彼の眼前にある現実は、彼は血腫が日に日に大きくなり、手術しなければ残り2,3か月しか生きることができないという現実だった。その血腫は、幼い時に母親を死へ追いやった飲酒運転の自動車に轢かれた時に抱えたものである。死を覚悟した少年は、絶望に暮れながらもある行動に出ることを決める。

子どもにとって母親は大きな存在である。お腹を痛めて産んでくれた存在であるがゆえに、そこには父親とも違う特別な意味合いがある。その母親を人為的な事故で亡くすというのは、言葉にできないほどの悲しさと悔しさがあるだろう。自分も同じ現場にいながら、自分だけが障害を抱えながらも生き延び、母親を守れなかったというのならば、なおさらだ。

少年は、母親を亡くして悲しみに暮れながらも、自分だけしか母親の意思を継ぐことはできないと思い、障害に負けず懸命に生きてきたのだと思う。事故の加害者は罰されず、それに加担したのは少年の父親だったのだから、そう考えても不思議ではない。

そこに、余命2,3か月という宣告が突然下される。すでに彼が生きている現実は荒廃した世界だったが、それでも母親の意思を生きるという一つの希望が残っていた。その希望すらも、血腫によって奪われようとしているのだ。

生きる希望もない荒廃した世界、どうせ死ぬことが決まっているのなら、自分を苦しめた人間たちにも同じ思いを味わせてから死んだ方がましだという考えが頭を過ぎった瞬間、人はどんな残虐な行為にも手を染められるようになる。

復讐は、ただ傷付けられたからやり返そうという発想だけでするものではないと思う。傷付けられ、もはや自分が最後の拠り所としていたものも奪われた時、自分をこんな境遇に陥れた人間も巻き込んでやろうという考えが生まれてくる。

生きていれば、人間同士は何らかの形で傷つけ合う。現代は、世界のあらゆる場所で復讐の嵐が吹き荒れている。傷付けられた人間に寄り添うことは、そんな連鎖を止める一助となるのではないかと思う。
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